第13話
13.
コーネはほおずりの勢いのまま、ジョッキに入った牛乳を狙った!
PCの少し奥の左の方に置いたそれに、コーネは頭を突っ込もうとした。
普段人が飲食しているのを飲み食べしようとすると止められるのを学んでいるので、本当に欲しいものはすきをついて狙ってくるのだ。
「こら、ダメだって!」
優は慌ててコーネの体を掴んだ。
「それは俺の!」
グワッシャーン!
コーネの顎がジョッキのふちに当たり、ジョッキが床に落ちた。
幸い丈夫なジョッキは割れはしなかったが、フローリングの床に氷と牛乳がぶちまけられた。
「こら! ダメだろ!」
優は慌てて台所にタオルを取りに行った。
コーネはぺろぺろと、床にこぼれた牛乳を美味しそうに舐めた。
「あ、こら! そんな飲んじゃだめだろ!」
かかりつけの獣医から、牛乳に耐性がある猫でも与えすぎてはいけないと言われているからだ。
優は慌ててコーネを抱き上げ、牛乳で濡れた前脚をタオルで拭いた。
とりあえず他のものに被害がないと分かると、優は牛乳の上にタオルを広げてかけた。
「もう! お前はこっちいろ!」
そう言うと優は、コーネを抱え、居間から廊下を挟んだ隣の部屋に向かった。
そこにあるケージにコーネを押し込もうとするが、必死に逃げようとして中々入ろうとしない。
そんな訳で、家族が「ただいまー」と帰って来ても、すぐに動けなかった。
「帰って来ちゃったじゃん‼」
「な~んな~ん」
「そんな甘えた声出してもダメだ! 入るの!」
なおも鳴き続けケージ拒否をするコーネに根負けし、優は言った。
「おやつ! おやつ持ってくるから、ケージで待ってろ!」
コーネはピタリと止まると、自分からケージの中に入って行った。
「……賢いな、おまえ」
優は半ば呆れて呟いた。
「って、パソコン‼」
優はPC画面がメンメンガールズのままだったことを思い出し、慌てて居間へ向かった。
そこには、床を拭く父と冷蔵庫に冷凍食品を入れる母、PCとメモ帳をのぞき込む妹がいた。
「コーネがいたずらしたか?」と父。
「お兄ちゃん、メンメンガールズ好きなの? メグちゃんってコ推し?」と妹。
「ま~ぁ、優もお年頃なのね!」
冷蔵庫へ運ぶ手を止め、優を見てにやにやしながら母が言った。
母は素早く冷蔵庫に買ってきた食品を全部入れてしまうと、妹と並んでPC画面をのぞき込んだ。
「あら~可愛いコじゃない」
「お兄ちゃんってこんな感じのコがタイプなんだー」
母と妹が、PC画面とユウの顔を交互に見ながら、意味ありげににやにやした。
にやにやにやにや、にやにやにやにや。
「あ……あぅ」
焦りと恥ずかしさで、優は汗をたらりとかいた。
「優ってば、まだ女の子に興味ないのかと思ってたから、お母さん嬉しいわ~!」
「ねぇねぇ、このコのどんなとこがいいの?」と妹。
母と妹が矢継ぎ早に色々言ってくる。
「――知らーんっ‼」
優はそう叫ぶと、二階の自室に走って逃げ込んだ。
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