第11話

11.


「実はね、私もメンバーにならないか訊かれたことあるんだ」

 にっこり笑って実知子が言った。


「え、そうなんですか!」

 優は一瞬驚いたが、実知子の可憐な可愛さなら納得できた。

「でも、実知子さんくらい可愛かったらそうですよねー」


「ふふ、ありがと。でももちろん、恥ずかしいから断ったけどね」

 少しはにかんで実知子が言った。

「それに、恋愛御法度なんだよ。そんな人権無視なこと平気で言うようなの、出来ないよね」


「恋愛御法度……やっぱりそうなんだ」

 優は他のアイドルでそう噂されることが多いのでうすうすそうなんだろうとは思っていたが、はっきりそう言われてショックを受けた。

「じゃあ、誰か好きな人がいるようなコは、メンバーにはならないですよね……」


「ん-、それはどうかな? 好きな人がいて、その人に見て欲しい、振り向かせたいって場合はなるんじゃないかな?」


「え⁉」

 優は希望で顔を輝かせた。

「でも、その人とせっかく両想いになったとしても、恋愛御法度なんですよね?」


「そうだねー、そこんとこは結構厳しいみたい。まあもちろんこっそりつきあってるコもいるかも知れないけど、契約期間の二年間のうちにばれたら、違反したってことで違約金を払うことになるみたい。ちゃんとした額は分からないけど、結構な額みたいよ」


「違約金!」


「そうだよ。アイドルも商売だからね。恵ちゃんだっけ? そのこもまあまあな額もらってると思うよ。だから、それなりの責任ってものがあるよね」

 実知子はキャベツをさばきながら言った。

「だから、私の知ってる元メンメンガールズのコも、両想いになっても彼にしばらく待ってもらってて、契約期間の区切りでアイドルやめてからちゃんと付き合いだしたね」


「そうなんですね……」

 優は一気に色々な情報を得て、感情がなかなかついて行かなかった。

「でも、本当に好きならいつまでも待てるし、金で解決できるなら二人で何とかすればいいですね!」


「……優君、情熱的だね♡」 

 実知子が微かに頬を染め、呟いた。

「連絡先訊いてもてもいい? 恵ちゃんのこと分かったら連絡するから」

 実知子がウェストポーチからスマホを取り出して言った。


「えっ、俺、スマホ持ってなくて。すみません。湊に伝えてもらえればありがたいです」

 きょとんとして優は言った。



「ちっ」

 実知子が舌打ちしたような気がしたが、優は恵のことを考えるのに集中していてスルーした。

「そうなんだ。珍しいね」


「買おうとは思ってるんですけど」


「じゃあ、何か分かったら湊に伝えるね」

 何事もなかったかのように微笑んで、実知子が言った。


 しばらく黙々と愛の修行キャベツの収穫をしていると、パンパンと手を叩く音がした。

「はーい、皆さん。そろそろ熱中症予防に、水分補給して下さい」 


 見上げると、花柄の農作業用帽子とエプロンを身に着けた、背の高いがっしりとした体躯の女性?がいた。

 右手に握られた包丁が、何故かとてもよく似合う。


 女性?は口布をとると、その人は湊の母親だった。

 近くにこれまたガタイのいい女性二人、湊の姉、和実と治実なおみもいて、三人そろうとがっちりとした壁がそこに出現したようだった。


(湊の好みのタイプって、ぜってー湊の母ちゃんか姉ちゃんに影響されてるよな!

いつもはすかしてるけど、マザコンかシスコンかその両方じゃん、うける~!)


 優は笑うようなセリフでもないのに、一人腹筋の痙攣を必死に抑え込んでいた。



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