第9話

9.


「湊は、仕事が速いでござるなー」

 プリンを食べながら、感心したようにゴーゴンが言った。

 さっき湊から嫌なことを言われたばかりなのに根に持っていないのは、ゴーゴンの長所かも知れない。

 根暗そうな風貌からは想像できないが。


「な、フットワーク軽いよな」

 優もアイスがほぼ溶けてしまったパフェを食べ進めながら言った。

「ゴーゴンは興味ないの、バイト」


「拙者はもうしてるからいいでござる」

 ゴーゴンはプリンアラモードの最後のサクランボを口に入れて言った。


「嘘! お店? どこで? いつから?」


「秘密でござる」

 ゴーゴンは不気味に笑いながら言った。


「えーなんでだよー教えろよー」

 優はパフェをあらかた食べ終え、長いスプーンを咥えながら言った。


「国家機密ゆえ、親友にも言えないでござる」

 

「ちぇーなんだそれー」

 優は間延びした声で言った。


(国家機密って笑えない冗談だけど、ゴーゴンの場合もしかしたらあり得るからなー。何だっけ、ギフトセット? ギフテッド? なんかそんな感じの、パソコンの天才らしいからなー)


 ゴーゴンは、理数系IT系に強く、ギフッテッド教育の一環として特別にどこかの大学ですでに講義を受けているらしい。

 その関係だか、不登校だか、ただのさぼりだか分からないが、ゴーゴンはちょくちょく学校を休む。

 どういう仕組みか分からないが、大学に行く日は、高校は出席扱いになっているらしいが。


 今でこそ落ち着いているものの、小学校時代は担任の教員と気が合わなかったのか、ただ授業が簡単すぎて嫌だったのか、ゴーゴンは優と違うクラスの時は一か月単位で休んだり少し来たりを繰り返していた。

 優と同じクラスの時は、ゴーゴンの母から頼まれたのもあって優がどうにかあの手この手で誘い出すことができ、そこまで休む日はなかった。


 そんな訳でゴーゴン父と母にとって優は恩人であり、店に来ると色々とサービスしてくれるのだ。

 優はそこのところはよく分かっていないが、ゴーゴンちは太っ腹だなーといつも素直におやつとしてサービスを受けている。


 同じく友人である湊にも同等のサービスをしてくれようとするが、湊は過剰なサービスを断っている。

 湊の場合、実家が農家でゴーゴンのうちの飲食チェーンとも取引関係があるため、一応線引きをするよう親から言われているのかもしれない。色々軽いようで、そう言うところは意外としっかりしている。

 そんな訳で、ある程度原価のする食べ物は断り、原価率の低い飲み物のサービスは受けるようにしているようだ。どういう線引きかは謎ではあるが。


 しばらく優がゴーゴンのバイトについて色々聞き出そうとしていると、湊が店内に戻って来た。


「お待たせ」

 湊が席に戻りながら言った。

「いいってよ。日給も八千円でいいって。朝六時から十五時までで」


「やった! あんがと、湊!」


「朝早いけど、大丈夫だろ? 後で集合場所とか細かいこと、紙で渡すわ」

 湊は優を見ながら、にやっと笑って言った。

「でも、結構きついから覚悟しとけよ~」


「オッケー大丈夫!」 

 優は親指を立てて湊に向けた。


「よかったでござるな~」


「ほんと、湊様々だよ」


「でもいいよなー、八千円。俺なんか小遣い月五千円で、定額使いたい放題だぜ! 

 ほぼ毎週何かしらに駆り出されてんのに、五千円じゃ割に合わねーよ」

 湊はふてくされ気味にそう言うと、少し残っていたアイスカフェオレをずずっと飲み干した。

「で、そう親に言うだろ。したら『家族は助け合うもんだ』とか切れられっしな。まじやってらんねー」


「わ、悪い」

 優は少し申し訳ない気分になって言った。


「いや、優のせいじゃないし」

 ストローで氷をつつきながら湊が言った。

「まあ、これでTシャツとチェキの目途がついたじゃん」


「そうでござる、よかったよかった」

 ゴーゴンが少し重くなっていた空気を気にせずに言った。


「そうだな、二人共ありがと!」

 そう言うと、優は二人と無理やり肩を組んだ。


「うげ、まじやめろって」

 湊が嫌そうに言った。


「やめるでござるぅ~」

 ゴーゴンは口調とは裏腹に、嬉しそうだ。


 優は心配事が一つ解決して、晴れ晴れとした気持ちになっていた。

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