第7話

7.

「で、次のショーっていつあんの?」

 湊が言った。


 優はパフェを食べながら、希望的観測と現実の間をぐるぐる考え込んでいた。

 そんな訳で、湊の問いにすぐに答えることができなかった。


「再来週の日曜日でござるな」

 ゴーゴンがタブレットに指を走らせながら言った。

藤見町ふじみちょうトリスミのイベントで、お習字ライブがあるでござる」

 ゴーゴンはタブレットの画面を優と湊に見せた。


 四人掛けの席の一辺に一人が座り、優を挟んで右に湊、左にゴーゴンが座っている。


 トリスミとは群馬県館森たてもり市発祥のスーパーチェーンで、その旗艦きかん店とも言えるのが藤見町店なのだ。

 三人の家から自転車で十分もかからない、近所と言ってもいい所にある。


「へーお習字ライブなんてあんだー」

 湊がゴーゴンのタブレットをのぞき込んで言った。

「あ、このコ可愛い」


「どのコでござるか?」


「貸して」


「ほい」

 ゴーゴンは湊にタブレットを渡した。


「このコ、黄色の」

 湊がタブレットの画面を拡大しながら言った。


「ひっ」

 ゴーゴンがひゅっと息を飲んだ。


「え、メグちゃんより可愛いコなんていたか?」

 優は少しむっとしながら、タブレットをのぞき込んだ。


「えっ」

 優もゴーゴンと同じく、息を飲んだ。


 タブレットには、ステージに立つ黄色いフリフリワンピースのコがアップで写っていた。

 黒髪ツインテールを黄色いリボンで結び、腰に手を当て仁王立ちするその姿は、まさしく仁王様のようであった。

 他のコと比べて、頭二つ分くらい高い身長、筋肉が浮き立って見えるがっちりとした体躯、太い眉にいかつい顔立ち、アイドルと言うより、格闘家と言われた方が納得できる。

 でもフリフリワンピに、ツインテール。


「え、こんなコいたっけ?」

 優は混乱しながら祭のショーを思い出そうとした。

 でも思えば、ほとんどメグミしか見ておらず、他のコの記憶はほとんどなかった。


黄田おうた コガネちゃんっていうんだー。

 俺も次のイベント行ってみようかな」

 ニヤニヤしながら湊が言った。


 一瞬、優はゴーゴンと無言で顔を見合わせた。


「パ、パワー系のアイドルっているんでござるか?」

 ゴーゴンが優に小声で言った。


「えっ、知んない知んない。何パワー系って?」

 優も小声で言った。


女子おなごがグループで戦う漫画やアニメには、大抵一人は力押しで戦うコがいるんでござるよ。それがパワー系。呼び名は今拙者が決めたでござるが」


「え、アイドルって戦わないよね。パワー系いんなくない?」


「じゃあ、なぜ黄田殿がいるんでござるか?」


「わっかんないよ!」

 優は思わず大きな声を出してしまった。


 そろりと見ると、湊はまだ熱心にタブレットを見ていた。


 優は意を決して訊いてみた。

「湊の好みって、こんなゴッ」

 優は辛うじて、ゴリラと言う単語を飲み込んだ。

 一応湊に気をつかったのだ。

「ゴ、ゴホン。こんな、あー、強そうなコが好みだったっけ?」


 そう言いながら、優は湊に言い寄るの面々を思い出した。

そう言えば、傾向として皆、気は強そうだが、ここまで気を抜くと命を獲られそうな強さの子はいなかった。


「そりゃ、弱いより強い方がいいに決まってるだろ」

 なに言ってるんだとばかりに、湊が言った。

「この盛り上がった二の腕! そそるわ~‼」


 再度、優とゴーゴンは顔を見合わせた。


「へ、へー。じゃあ、めぐちゃんのこと、どう思う?」

 優は若干引きながら訊いてみた。


「まあ、いいコだとは思うけど、タイプじゃないな」

 湊はタブレットから目を離さずに言った。


「拙者は、良いと思うでござる」

 ゴーゴンが言った。

「三次元の女子にしては」


 優は世界の広さを、様々な価値観を、一瞬のうちに感じとった。


『みんなちがって、みんないい by 金子みすゞ』

 そんなフレーズが優の脳裏にどーんと居座った。


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