第2話

2.

「メンメンガールズでござるか。それに入るから、ごめんなさいと」

 

 赤いイチゴに白のホイップクリーム、チョコのソースがとろりとかかったストロベリーパフェは、とても可愛く美味しそうだ。

 それを小さなスプーンですくう少年……と表現をするには抵抗のある男、当郷権助(とうごう ごんすけ)は、やけに美味しそうにパフェを口にしながら言った。

 パフェと当郷の外見――脂っこい伸び放題のくせっ毛に、黒縁眼鏡、小柄なのに横にでかい体形—―は、なんとも言えずミスマッチだが、本人達はまるで気にしていなかった。

 ござる口調は、きっと今忍者漫画にはまっているからだろう。いつも口調が安定しない。

 

「あれだろ、よく祭で見かける、五人組のご当地アイドル」

 

もう一人の少年、坂下湊(さかした みなと)が言った。

中肉中背で整った顔立ちをしているが、どこか軽い印象を受ける。

湊はコーヒーをブラックで飲むと眉をしかめ、角砂糖をかじった。


「そう、あのメンメンガールズ」

 

 ひょろ長ニキビ面の優が言った。不自然なほど色白だから、ぱつんぱつんに膿んだ赤いニキビが嫌でも目立つ。

 優はチョコレートバナナパフェを食べていた。


 優は地元の祭でメンメンガールズのステージをちらりと見かけたことはあったが、あまり興味がなく、なんかやってるなー位の認識だった。


 三人の少年――中学を卒業して高校入学を控えた若干イケてない感じのする少年と青年の間位の男の子達―― は、当郷の両親の経営する喫茶店の奥で、優を慰める会をしていた。

 三人は小学校からの縁で、若干タイプが違いながらも仲の良い友達だった。


 メンメンガールズは三人の住まう群馬県館森市の半ば市公認のご当地アイドルで、元々はとあるお習字、そろばん塾を母体としていた。

 そんな訳でパフォーマンスの一環で、そろばんやお習字のパフォーマンスがあり、キャッチフレーズは『歌って踊ってお習字そろばん、寺子屋系アイドル! メンメンガールズです!』だった。


 今は何故か農協や地元スーパーの協賛を得ていて、地元で行われる大抵の祭で余興の様な扱いでライブを行っている。


 名前の由来は、館森市をあげて名物にしようとしている麺類のメンから来ているらしい。

 男(Men)なんだか女(Girls)なんだか分かり辛いが、今のところ15才から25才の女性五人組のグループだ。

 ちなみに、館森市では小麦がよくとれ、小麦と米の二毛作が盛んだ。


「でもさぁ、それって振られた訳じゃなくない?」

 湊が言った。


「えっ」

 ぱっと顔を上げ、優が声を出した。


「『ごめんなさい』ですぞ。どう考えても振られたでござる」

 小さなスプーンをくわえ、頭を振りながら当郷が言った。


 優は無言でうなだれた。


「でも、メンメンガールズ入るから今は恋愛できないってことだろ。

じゃあ、別に嫌いってわけじゃないんじゃん? まだワンチャンありじゃん?」

 湊が訳知り顔で言った。

 どこがいいのか分からないが、湊はもてる。特別な彼女はいないと言っているが、女友達と称してデートするコは何人もいるらしい。


 優はがばっと顔をあげ、キラキラした目で湊を見た。

 湊がもてるのはなんかむかつくが、今はその女の子慣れした湊の言葉にすがりつく思いだ。


「こっわ。それ、ストーカーの思考でござる」

 当郷がありえないと頭を振って言った。


 優はまた無言でうなだれた。


「そうかなー、俺は結構いけると思ってたんだけど」

 湊が意味なくコーヒーをスプーンでかき混ぜて言った。


「え、何で!」

 優が顔を上げ、藁にも掴みかかりそうな勢いで言った。


「だってなんか二人共、変に意識し合ってただろ。めぐちゃん言葉には出さないけど、なんか言いたげだったし」

 

 優はもげそうな勢いで頭を前後に振った。


「それに、アイドルになる事教えたの、優だけっぽいぜ。

噂だけど、他の告白した奴らは好きな人がいるって振られたらしいぜ。

誰だろうな、好きな人って」


 湊は優を見ると、意味ありげににやりと笑った。

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