第1話 05/08TURN

「ラウンドワン、ファイト」

 騎士の一人が誰の指図もなく開戦を宣言した。

 先陣を切るようにワジュメゾンの槍がナコエーに向かって突き出される。

 ナコエーは盾で槍の刃を防ぎ、機敏にかすめさせては斧で槍の柄を狙って力強く振り払う。

 振り払われた斧によって槍の柄は大きく振動するが、ワジュメゾンは物ともせずに槍を突き出し続ける。

 盾で押し返せないと即断したナコエーは斧の斧刃を槍の柄に引っ掛けてワジュメゾンの注意をそらす。

 槍と盾が離れた一瞬の隙で、盾を振り上げては下ろして槍の穂と柄の間にある接合部に強い衝撃を与えた。

 強い衝撃によって穂先は地へとついてしまうが、咄嗟に後退しては待ち伏せするかのようにワジュメゾンは盾を構える。

 ナコエーも盾を構えながら前進していき、ワジュメゾンとの距離を徐々に詰めていく。

 槍の射程内に入ったと双方が認識する。だが、槍の穂先が飛んでくる気配がない。

 意表を狙って仕掛けるつもりだろう。そう考えたナコエーは斧を敢えて前へと突き出す。

 突き出された斧は小さな盾と称されるほど受け流すことに長けている。

 間合いが取れれば突き崩しで意表を狙えるが、これでは互いの出方を待つことになってしまう。

 どちらかが攻めに転じなければ決着はつかない。

 罠だとわかっていても行くしかないと、ナコエーは突き出した斧を手繰り寄せてから一気に飛び込む。

 ワジュメゾンの手首に目掛けて斧を斧頭から振り下ろすが、籠手で軽々と阻まれてしまう。

「戦いにならないとはそういうことか」

 ワジュメゾンの一声にナコエーは目を丸くする。

 ハッタリに気付かれた。

 ナコエーは手立てを打てる間もなく、横から大きな何かが斧の斧刃にぶつけられる。

 ワジュメゾンが手にしている燻銀の盾だ。

 盾が何度も斧の斧刃に打ち当てられ、斧刃から壊れる音が鳴り響く。

 限界を迎えた斧の斧刃は大きく割れ飛び、その破片が四方八方へと散り散りになっていった。

「ショーグン、ウィン」

 予想外の顛末に騎士達が騒ぐ中、騎士の一人が声を高らかにワジュメゾンの勝利を宣言する。

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