第1話 03/08TURN

 刃を突き刺さすように空気が凍てつく。

 夜風の心地良さはなく、仲夏を感じられないほどに現実が重くのし上がる。

「お前に目的を言ったところで何が変わる?言えば減税でもしてくれるのか?」

 ナコエーは啖呵を切るように将軍を責め立てていく。

「血税でまんまを食っているくせに国民からの要望には応えられないのか?」

「……税とは皆で支えあって出し合うもの。搾取ではない」

「ここにある美術品は税で支えあって買わないといけないのか?」

「……それが国政だ。悪く思わないでくれ、正しき国賊よ……」

 将軍の合図で騎士団は一斉に槍と盾を構え、ナコエーを迅速に包囲していく。

 有利な陣形で牽制する騎士団だが、その顔触れには焦りが見えていた。

 それが何に対してかは知る由もない。

 だが、彼らの視線の先には一滴の汗もなく佇むナコエーがいる。

「納税者たる国民に感謝するどころか国賊扱いするとは腐った国政だな」

「ヨテムサニヒ流空手の真髄を見せてやる」

「かかれ!」

 将軍の号令がかかると騎士団は一斉に槍の先をナコエーに向け、彼女に突撃していく。

 ナコエーは一人の騎士に向かって疾走し、槍の柄を掴んで力強く引き寄せた。

 騎士の顔が青ざめる前に彼のあごを下から上へと突き上げ、痛みと驚きの表情を浮かべさせる。

 ナコエーはそれを見届けることなく、近くにいた別の騎士に強烈な跳び蹴りを繰り出す。

 不意打ちを狙った騎士がナコエーの背後から槍で突き刺そうとするが、彼女が背負っている盾に防がれたことで鈍い衝撃音が響くと同時に回し蹴りを受けて吹き飛ばされていく。

 挑んでは倒れて悶える騎士達の姿はまるで醜態の展覧会のようだ。

「死人が出てもおかしくない殺人空手ですね……」

 そんな弱音が騎士の口から漏れると、将軍は深い重みを帯びた表情でその騎士に問いかける。

「……この戦い、どちらが正しいと思うか」

「?……僕達……いや、正しいとは自信を持って言えないですが……国賊が正しいかもわかりません」

「今はそれでいい。だが、いずれは分水嶺に立つときが来るだろう」

 将軍の言葉に騎士は驚き、口をつぐんだ。

 この焦りは……戦うべき相手を見誤っていることを示しているのかもしれない……。

 騎士がそう熟慮していると、将軍はナコエーを見据えながら鈍く光る燻銀の槍と盾を力強く握りしめながら前へと進みだした。

「ワジュメゾン将軍!……もしかして……!?」

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