第1話 02/08TURN
エメユフト王城~ヤヒペナの回廊
稀代の美術家として名を馳せた吟遊詩人ヤヒペナが晩年の作品として仕上げた明星の噴水が中央に鎮座している。
高い天井と華やかな彫刻、優雅に配置される美術品が訪れる者を魅了していく。
名作の数々が鮮やかに彩る一方で、呪われた作品が展示されているというまことしやかな噂が流れていた。王妃テゼリが主催する国際アートオークションの会場としても使用されていたが、愛息である王子リヒゼエユトが失踪してからは開催されていない。
兵士達がやみくもに現れなくなったことで、ナコエーは美術品を見渡しながら回廊を渡り歩いていた。
一客のように美術品を物静かに眺めていくが、内に湧き上がる苛立ちを抑えきれず拳を力強く握りしめる。
(血税で美術品を買い漁る腐った者共が……!)
湧き上がる苛立ちに反して美術品を傷つけることはなく、技術や技法といった創造性と作者の思想や背景を見るようにしていく。
そうしなくはいけないほどに美術品を富裕層の象徴として嫌悪感を抱いていた。
(美術品に罪は無い……罪は無いのに……)
心の中で葛藤しながら鑑賞を続けていると見覚えのある美術品が展示されていた。
(!……母さんが描いた絵画……!?……売ったのか……?……いや、売られてしまったのか……?)
(これは人物画のはずなのに人が描かれていない?)
(風景画だとしてもおかしな構図……人が消える絵画なんてありえるのか?)
母親との思い出と不可解な現象が重なる人物画に、ナコエーは周囲を気にせず見入ってしまう。
近辺に飾られている人物画や風景画と見比べている間に、重厚な甲冑に身を固めた将軍が騎士団を率いて到来してきた。
「貴殿が侵入者か、目的を答えよ」
鉄灰色の髪と顎鬚に紺碧色の瞳をしたソルン族の歴戦の将軍が藍鼠色のマントを風になびかせて、ナコエーにその真意を問う。
射るような眼差しに睨まれるナコエーだが、臆すことなく冷ややかに答えた。
「搾取する側が正義気取りか?腹立たしいものだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます