ポルキリーフォーカナレッジ 創生の正義

儚月雷叶

第1話

第1話 01/08TURN

 ソルケフ歴5831年7月2日 エメユフト王城

 王城は堅固な石壁に囲まれ、荘重な正門がそびえる。

 城内には豪華な装飾が満ち、回廊には数え切れないほどの美術品が並ぶ。

 預言者を迎えた頃から攻城兵器が次々と配置されていく様子に戦争を危ぶむ者が後を絶たない。

 離れにあり、禁忌の領域として建てられた運命の塔は虚栄の象徴として国民に深い不信感を募らせていた。


 暮夜が訪れる頃。

 蜜柑色の長髪と瞳に鉄製の鎧を着こなす人間族ソルンの女傭兵が正門から現れた。

 見張りの兵士が女傭兵に目的を問うが、彼女は何も語らずに見張りの兵士の顔面を正拳で打ちこむ。

 仰向けで倒れていく同僚を近くで見ていた別の見張りの兵士が急いで女傭兵に殴りかかるが、肘で受け止められては腕の関節部を手刀で打たれ返されたことで悶えてしまう。

 異常事態に気付いた兵士達が手持ちの剣や槍で女傭兵を次々と攻撃するが、傷一つ与えられずに返り討ちにあっていく。

 背負った斧と盾を使わずに格闘技だけで戦う女傭兵の異様さに臣下や使用人は恐怖から絶叫と共に逃げ隠れ、擦れる金属音と慌ただしい足音が城内に大きく響き渡る。

 騒ぎを聞きつけたかのように一人の男が女傭兵の様子を物陰から冷静な面様で見ていた。

 男は藍色のセミロングと金色の瞳に群青色のフード付きローブを身に纏い、眼鏡とマスクで素顔を隠す人間族ソルンらしき魔法戦士のようで腰には魔力を秘めた刀を帯びているようだ。

 阿鼻叫喚が渦巻く中、男が手にしている一冊の書物が前触れもなく喋りだす。

「ナコエーが暴れとる」

「ナコエー?知り合いですか?」

 男が書物の言葉に関心を寄せて返すと、書物は予知めいたことを流暢に喋る。

「んや。ナコエーはこれから英雄になる。今は傭兵だけどそろそろ人間やめそう」

「英雄……ですか。英雄になる者が城内で暴れるとは訳が分かりませんね」

「十中八九、金」

「何が目的かは分かりませんが、勝手なことはやめていただきたいので彼女に協力してもらいましょうか」

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