ひとつ屋根の下で(2)
引っ越しの荷解きに追われたその日の夜。
私たちは近くのレストランで夕食を摂った。
じゃんけんで勝った順番にお風呂に入り、リビングで髪を乾かしていると、私よりも先に入浴を終えた千聖くんが近づいてきた。
千聖くんは紺色のパジャマを着ている。
彼のパジャマ姿を見るのは久しぶりだ。
「風呂上がりだとまっすぐなんだよな、愛理の髪って」
千聖くんは遠慮なく私の隣に座った。
振動が伝わり、彼の体重でソファが軽く沈む。
ソファの端っこに座ってテレビを見ていた優夜くんが、ちらっと兄を見た。
それからすぐにテレビに視線を戻す。
お風呂上がりの千聖くんと優夜くんが、自分の家で使っていたソファに座っている。
ジロさんは優夜くんの膝の上で丸まり、麻弥さんは床のカーペットに座って、優夜くんと同じようにテレビを見ている。
自分の家に成海一家がいる、この現実がとても不思議。
まるで夢でも見ているような気分だった。
「うん。濡れるとおとなしいの。でも乾くと爆発するんだよねえ。ずっとこの状態ならいいのに」
濡れた髪を摘まんでため息をつく。
「爆発してないと愛理の髪じゃねーだろ。貸して。引っ越し記念に、乾かしてやるよ」
「へ」
驚く暇もなく、千聖くんは私の手からドライヤーを取り上げた。
「向こう向いて」
「え。え?」
「いいから」
「…………」
困惑しながらも、私は言われた通り千聖くんに後頭部を向けた。
乾かしやすいように少しだけ俯くと、千聖くんはさらに近づいてきた。
ドライヤーのスイッチを入れ、温風をかけながら私の濡れた髪に触る。
わ、わ。
軽くかき混ぜるように髪を撫でられて、心臓が大きく跳ねた。
髪を優しく撫でる指の感触が気持ち良い。
その一方で、心臓はさっきからずっと大暴れしていて。
暴れる心臓の音が千聖くんに聞こえているんじゃないかと不安になる。
不意に、千聖くんから自分が使っているリンスと同じ香りがした。
あ、千聖くんも私と同じやつを使ってるんだ……。
そう思うと、胸のドキドキが止まらない。
髪が顔を隠してくれていて良かった。
だって、きっといまの私の顔は真っ赤だもん。
「仲良しねえ」
ドライヤーの音に紛れて麻弥さんの声が聞こえた。
麻弥さんや優夜くんに見られていると思うと急激に恥ずかしくなり、もういいよ、と千聖くんを止めようかと思ったけれど。
止めたら、この時間は終わってしまう。
「――――」
結局、私は千聖くんになされるがまま、最後まで髪を乾かしてもらったのだった。
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