第75話 威圧
「――「待ってください!」」
俺の言葉を遮ってローブを纏った女が声を上げた。
女に視線が集まる。
暗闇で見え辛いがコッロス公爵家の紋章が見えた。
「誰だ? 今の君に発言権があるとは――」
ビンセント配下の騎士が女の発言を遮った。
しかし女は発言を止めずこういった。
「私はコッロス公爵所属の回復魔術師ゲンカ・イ・カンゴと申します。サラマンダー事件の際にも回復術師として参加していました!」
「「「――!?」」」
周囲を取り巻く公爵配下、冒険者&傭兵、神殿の三勢力に同様が走る。
若い回復術師の一挙手一投足に注目が集まる。
(誰だっけ? この娘……まあでも俺の証言が正しいと証明してくれるなら誰でもいいか……)
シッヌとか言う騎士の従者やコッロス公爵家の信奉者に俺や彼女が害されないようにしておこう。今は……
先ほど見えた数人に魔力でマーキングをし、暗殺者の襲撃を発見して見せた【魔力探知】を前回よりも薄く広げる。
ライブ会場のような異様な熱気に包まれている今なら、前回よりも出力が高くてもバレないだろうが念には念を入れておく。
例え魔術師に俺が魔力を放出していることが発覚しても、怒りなどの興奮から魔力を抑えきれていないだけだと思われる量に抑えている。
「ナオス様の言う通りシッヌさまは軽症でした。それは私の目から見ても明白です。」
「ぶ、無礼者! シッヌ様はコッロス公爵五代に渡って譜代騎士である名門オオゲサー一族宗家嫡男なのだぞ? そのお方になんと無礼なッ!!」
唾を飛ばしシッヌの配下と思われる男が大声でまくし立てる。
シッヌ共々まるで騎士とは思えない体型だ。
「事実を申し上げることが無礼であるのならそれで結構です。事実あの場の医療魔術を率いたセイソウ・ラクンドは、シッヌ卿の看護に掛かり切りで多くの騎士や傭兵、冒険者の方の命を危険に晒しました」
「貴様ぁぁああああああ!」
激昂した騎士は腰の剣に手を伸ばす。
「抜くのならそれ相応の覚悟をしろ!」
指向性を持った【威圧】をする。
「「「――ッ!!」」」
指向性をミスしたのかこの場にいる全員が息を飲む。
(やっべやっちまったか?)
しかしそうではないようで……
「なんという【
「見ろ! シッヌとか言う騎士の部下だけの意思を砕きそれ以降はあまり効いていないように見える」
「竜の【
「余波でこれならシッヌ卿の部下へは一体どれだけの【
と騎士や兵士、冒険者や傭兵からは称賛の言葉が聞こえてくる。
「素晴らしい魔力コントロールだ」
「回復魔術師としても、剣客としても一流とは恐れ入るまるで【万能者】さまみたいだ」
この世界では技術として【威圧】が存在する。
モンスターの【
その結果魔力はある程度指向性を持たせ放出することが出来て、オマケに波のように合成して小さな威力と魔力でもより大きな効果を生むことが出来る判明した。
発見した奴の渾名は暫く「お兄様」になった。
今回も合成地点を逆算し、【威圧】を数度放って合成したのだ。
「剣を抜いての話し合いがしたいのなら命を賭ける覚悟をしろ、少なくとも五体満足で居られると考えるな」
「ひぃいいいいいいい!」
シッヌ配下の騎士が絶叫を上げる。
脂ぎった醜いブタ鼻で禿頭の騎士は腰を抜かしたのか後ずさりしている。
顔は鼻水と涙でベタベタ、足元には染みが出来ていた。
小便でも漏らしたのだろうが、美女でもない限り加点要素にはならないな。
他の騎士は気を失っている。
「さて騎士シッヌの不手際について証言は取れた。
公平公正な捌きを望むのであればこの遠征を生き残ることだ。これ以上家名を汚したくないのならば一番槍の栄誉と共に死ぬといい。俺からは以上だ……今日は気が立っている天幕の近くには迂闊に近づかないでくれ、見張りの騎士も距離を開けてくれると嬉しい」
「判りました……」
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