第74話 起き攻め


「あっという間に腕が治っちまったぞ……」

「す、すげえぇ」

「それにタブレットポーションってのもすげえ腹の傷を直ぐに治しちまったぞ……」

「誇張してると思っていたけど強ち間違いじゃないのかも……」


 と最初はドン引きしていた騎士や兵士たちは、新しく下賜されたポーションの性能を実際に目にできて興奮しているようだ。

 しかし冒険者や傭兵、神官の反応は全く違った。


「見たか?」

「ああ……タブレットポーションあれは冒険者や傭兵の死亡率を大きく変える」

「ギルドマスターに掛け合って融通してもらわなくては……」

「高い金払って神官に術をかけてもらう必要もなくなる」


「あれは戦場でこそ役に立つものだ」

「保存性・携帯性その全てが既存のポーションを上回っているだけでなくあの回復速度、並みのヒーラーをも超える」

「戦場を知らない子供がどうしてこんなモノを思いつくんだ?」

「そんなのどうだっていい! 圧力をかけて公爵に出させるぞ!!」


 とタブレットポーションの有用性を認め、ギルドマスター経由で圧力をかけ融通して貰おうとしているようだ。

 その原動力は恐らく、神官へのイメージの悪さから来るものだろう。

 まあ現状売らないんだけどね。


「ポーションを乾燥し板状に整形することで保存性・携帯性を向上させたのか……」

「しかしどうやって? 水に魔力を込める故に限度があるハズどうやって解決したんだ?」

「そんなことはどうだっていい! これは革命だ多くの命を安価に救うことが出来る!!」


「これはレシピを提供していただかなくては! 聖人ならば神々の僕として神殿の繁栄にご協力していただかなくては……」

「このポーションがあれば地母神派の影響力は増すでしょう」

「フラム大神殿――太陽神派にだけは奪われないようになくては……」

「……気が重いです」


 神官達は神官達でどうやって再現するのか? 自分たちの利権に繋げるのか? と思案しているようだ。


重畳ちょうじょう重畳ちょうじょう


 今は必要以上に目立ちたくないがどうせ俺の実力は、遅かれ早かれ気付かれるものだ。

 だったら回復方面だけヤバいやつと思われていた方が、後から闘いもできる奴とバレて過剰に警戒されるよりはマシだ。


 つまり今回の行為の意味とは、『俺に歯向かう奴は何人たりとも許さない』ことに加えて、次兄とその配下である騎士に対しては、『タブレットポーションを他勢力に売り付けるぞ? 仲介したければどういう態度とればいいか分かってるよな? ゴラ!』という意味になる。


 確かに俺のやり方は現代的価値観で見れば過激だ。

 勇者達クラスメイトの中にも俺を非難する奴は居るだろうが、道徳・人権意識に加え遵法精神のない中世ヨーロッパ風世界の蛮族の流儀に従った行動なのだ。


 『話して、遊んで酒を飲めば分かり合える』などと、前世の夢想家集団が語っていたがそれが本当にできるのなら、友人同士で絶縁なんか怒らない。是非実証するために戦地で行ってきて欲しいものだ。


「騎士シッヌの腕を治して頂いたことについて感謝の言葉を申し上げます。しかし事を荒立てたことに付いては抗議させて頂きます」


「当然だな」


 規律を強いる側が、特例を認めるなんて死んでも言えないだろうことは理解できる。

 理由は、兵や外部の人員に示しが付かず軍規が緩む可能性があるからだ。


「騎士シッヌは確か先日のサラマンダー事件の際にも戦地に居たと記憶している。確か負傷兵として老魔術師自らが治療していた」


「それが何か? 回りくどい言い回しでこれ以上規律を乱すようでしたら……」


「そう焦るな早い男は嫌われるぞ?」


「――ッ!?」


 ビンセントは額に血管を浮き上がらせ肩を怒らせる。

 その姿を見て護衛の騎士と兵士は腰の槍を向けたり腰の獲物に手をかける。


「待て!」


 右手の平を仲間側に向け静止のポーズを取る。


「しかし……」


 言い淀み槍を向ける騎士に対してこう言った。


「全員死にたいのかッ!?」


「「「「「――ッ!?」」」」」


「このナオス様はヤると言ったらヤる人間だ。それは今のを見て理解しただろう? 一人で帰るだけならナオス様一人で帰ることが出来る……」


「しかし! 私刑を許しては軍規が乱れます!?」


「貴族籍を剥奪されたとはいえど、主君の血統を受け継いだ男児! それも聖人級の回復魔術を使え、創薬にも優れる時代の浮雲児だ!! 我々は軍規に目を瞑るしかないのだ!!」


「熱くなっているところ悪いんだが、再び詳しく説明しよう。騎士シッヌは先日のサラマンダー事件の時、騎士でありながら軽度の損傷で自らは後方へと後退し、過剰とも言える治療を老魔術師から受けていた。そのでいで助かる命が幾つも失われただろう……」


「――っ!」


 俺を睨んでいた視線がダンゴムシのように丸まっているシッヌに集まった。


「……騎士シッヌがあなたの言う通りサラマンダー事件に参加し、負傷していたことは事実であると知っています……シッヌが騎士道精神に欠けた不忠義者だったとしてもそこまでの人物であるとは思えません……一度調査させて――」


「――「待ってください!」」

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