第59話 契約の変更

 

 まあ当然だよね。

 そんなことを考えていると騎士団長はお礼の言葉とある提案をした。


「ありがとうございます。しかし何度も言いますがナオスさま、納品の際には騎士が引き取りに行く方がナオスさまにとってもいいのでは?」


「……単純にこの家の騎士を信用できないんですよ。幼少期から数年酷い生活状態と虐待に加担したあなた方をね」


「……」


 騎士団長とポーションを運んでくれた騎士は何も言えずに黙り込んだ。

 俺が哀れに思って回復魔術を使わなければ今の待遇は無かったのだから。


「それに俺は爵位と一族の一員である苗字を持っていませんから、何かあっても俺が泣き寝入りするはめになります。団長がご存じの通り離れのメイドは系統や好みは別れますがみんな美人揃いですので……」


「なるほど騎士の権威を笠にして乱暴狼藉を働くことを恐れているのか……」


「その通りです」


 騎士は最下級ながら貴族として扱われる。

 コッロス公爵家は地方貴族であるためその配下の騎士は、『世襲騎士』と『一代騎士』に分類される。

 

 『世襲騎士』は文字通り二代以上の世襲、騎士の称号世襲した一族の俗称なのに対して、『一代騎士』は当人から騎士を拝命した叩き上げであり、両者は蛇蝎の如く互いを嫌い合っている。


 細かいことを言えば領主である騎士もいるのだが、その任命権は国家に存在し事実上は、上位の爵位の部下ではあるものの、その関係は明確な配下ではないく両者は、『領主騎士』『家人騎士』と区別されている。


「今や重要な取引相手で閣下の血を引くあなたを害そうなんて、命知らずは存在しないと思うんですがね」


 騎士団長は革張りの椅子に深く腰を降ろすと、根拠を交えた意見を述べた。

 そのセリフは自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


「だといいんですけど……」


 貴族の爵位なんて欲しくはないが、奴隷メイド達が一定の力を得るまでの間は庇護が必要だ。

 この世すべてを敵に回せるほど、勇者の力は万能ではない。


 あれだけ派手なデモンストレーションを結果的に行ったのだ。

 待遇が改善しなければ損と言うモノだ。


 しかしまあ、予想通りとは言え騎士や兵士、使用人たちからの奇異な者を見るような視線には癖癖する。

 今でも平穏無事に暮らしたいと考えている俺は異常者なのだろうか?


 でも仕方がない。

 あの時あの場所で勘違いとは言え、自分のやらかしたことの後始末だと思って治療したのだ。

 そんな言葉で自分を納得させている俺に騎士団長は、何でもない世間話のような軽い口調で話した内容は衝撃的な者だった。


「遠征の件だが少し予定を早めようと思う」


「どうしてですか? 物資や兵の士気に影響するのでは?」


「オニさまからの御意見でなこれ以上民に不安を与えることは、看過できない一刻も早い安定のために即時調査を命じる。とのことだ」


 騎士団長が話した内容は正に爆弾発言だった。


「急ですね……」


「ああ、だがこれ以上物流が停止するのは看過できない」


「穀物も野菜も陸上よりも海や河川の方が早く大量に輸送できますよね?」


「だがその分リスクも高い」


「河川や海は大型のモンスターが多くオマケに一部の魔術は、効果を失うからな魔除けのアイテムがない航海は大変危険なものだ」


 騎士団長の言葉には実感が籠っていた。

 交通の要所であるベネチアンの街で騎士団長を務めているのだから海戦の経験もあるのだろう。


「俺にも予定があるんですけどね……」


 俺にとって大幅なメリットがないのに風呂に入れない、オマケにメシが貧相な旅は御免だ。


「そんなに嫌ですか?」


「嫌ですね、メシは不味い風呂にも入れない。むさ苦しい男だらけで命の危険を伴う……逆に聞きますけど、自分から行きたくなる部分てあります?」


「……」


「しかし我々にはあなたの回復魔術が必要です」


「手足が無くたって死にはしないので別に必要ないのでは?」


 バン。

 大きな音を立てて騎士団長は机に手を付いた。


「――っ!」


 大方怒鳴ろうとしたのだろうが、怒鳴ればそれを理由に自分達が不利になると考え至り黙ったのだ。


「何か?」


「いえ何でもありません」


「それに神殿からも、魔術師団からも術師が遠征に付いて来るハズです空の輿を担げばいいのに……」


「そうは行きません。それに契約を交わしたハズです」


「ですが、契約内容を変更されたので抗議に行こうかと……」


「そうですか……私もご一緒しましょう」


 まあ今世も前世も【アイテムボックス】があるから食べようと思えば温かいモノをそのまま食べることが出来る。

 ここは一人で食べれば問題ない。


 一番の問題は風呂だ。

 目立つし警護を立てなけば襲われ兼ねない。

 しかし上が贅沢をし過ぎれば下は不満を溜め込む。

 

 そうして暗殺されれば目も当てられない。

 だったら俺以外も入ればいいんだ。


「では行きましょうか?」

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