第57話 処分


「侵入を許し撃退も出来ず挙句の果てには責任転嫁、これが家の仕事と言う訳ですか」


「――っ! 家名を間違えるとは何事だ我が家の家名はオチョツコーイだこれだから平民の子は……」


「種はあなたの雇い主である公爵ですけどね。それに見逃したのは事実だし遅れたのも事実だ事実の指摘を侮辱と受け取り、護衛対象にごにょごにょと言い訳をするのは見苦しいと思わないか?」


「――くっ!? 覚えていろよッ?」


「では言葉を返そう卿。聖人級であり公爵家の血を引く俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。俺はこれから兄上に報告をしに行く処分されないことを祈るんだな」


 俺を引き止め懇願するおっちょこちょいの静止を振り切って本邸へ向かうため脚を早める。


「ナオスさま! 申しわけございません」


 俺の進行を邪魔するように回り込んで縋りつく、その姿はまるで聖者に縋る民のようだ。


 前世が勇者であり聖人級回復魔術師であろうとも、根っからの利己主義者エゴイストの俺にとって有益でない人間の生死や栄達など路傍の石程度のものだ。


 俺からの不興を恐れオッチョコチョイの首を刎ねようがどうでもいい。

 否、次兄が俺の事をどう思っているのか明確になるのだから死んでくれた方がいいかもしれない。


「石が邪魔だ」


 俺はそう言ってゴミを蹴っ飛ばす。

 爪先が鳩尾みぞおちに入ったのか殺虫剤をかけられた虫のようにもだえ苦しんでいる。


「そう言えば前に『訓練です』って言って俺に木剣振っただろ? その御返しだ」


「う゛っうう……」


 虫のように丸くなりうめき声を上げるだけで返事を返すことはない。

 子気味良い気持ちで跳ねるような足取りで離れに一度戻った。




………

……




 観音開きのドアを開けると寝間着姿のメイド達が集まっていた。


「大丈夫でしたか?」


「あぁ俺か公爵家を狙ったと思われる暗殺者が侵入したが撃退した」


「もしものことがあったらどうするんですか?」


 剣を手にしたグレテル先生は俺を窘める。


「何かあっても俺なら治せるからな」


「治せるからって無茶して言い訳じゃないですから」


「だか俺以外が対処していれば死人が出ていたぞ?」


「そうかもしれませんが……」


「まあ今回は大事にならなかったんだしそれでいいじゃないか」


「……」

 

 女性陣を振り切ってゾンビ溢れるような洋館の階段を昇っていく……

 荒んだ心を癒して欲しくて、振り返ってイオに着替えを手伝ってくれるように頼む。


「イオ本邸に行って今回の件を報告するから、着替えを手伝ってくれ」


「かしこまりました」


 顔や身体に当たる爆乳によって色んな意味で元気が出る。

 この世界には勇者達(女子)の活躍によって洋服類は充実している。


 そのため前世と同じくワイシャツは下着と認識されていないものの貴族の間では、ラフな格好とは言え一枚ベストを着ることがマナーとされている。


 ノックをして次兄の執務室に入る。


「ナオスか……」


 机に置いた書類から視線を上げこちらを確認すると短く呟いた。

 疲れる俺の相手はしたくないと言った様子だ。


「当事者として一応報告をしようかと……」


「かけてくれ……お茶は……」


 使用人を呼ぶためのベルに手を伸ばす。


「けっこうです」


「そうか……」


 次兄は伸ばした手を気まずそうに戻しペンを取る。

 俺の話を訊く前に今書いている書き物を終わらせたいようだ。


「単刀直入に報告は三つ、暗殺者は『東方の暗殺集団『蛇』の流れを汲む『海蛇』頭目ファルド』と名乗っていました」


「『海蛇』頭目ファルドだと!? 大物だな……」


「大物なんですか? 「じつは――」いえ説明は結構です報告を続けます」


 暗殺者の説明をしようとする次兄の言葉を遮って俺の話したいことを話す。


「賊の戦力は強大で殺すしかありませんでしたが、呪いをつかっていたのでもしかしたら今回のサラマンダー事件に関係しているのかもしれません」


「なんだと!! ならばより一層調査を進めなければ」


「最後にと名乗る騎士に難癖をつけられましたので、相応の処分をお願いします」


「騎士オチョツコーイが理由はなんだ?」


「一つ敷地内への侵入を防げなかったこと初動対応の遅れ、二つ目は現状最重要に近い人物への無礼な言動です」


「判った処分を降そう」


「どのような判断が適当だと考える?」


 現状代理とは言えど、領内で起こる政治的な決定権を有する次兄が「意見」と言う形で、処分の内容を尋ねると言うのは事実上処分の内容を委ねると言うことになり、『魔力ゼロ』と蔑まれた俺が次兄と同等かそれ以上の立場であることを内外に知らしめることが出来る。


「……降格……あるいは調査隊で前線に出ることです」


 一瞬悩んだものの英雄として凱旋するか、二階級特進するかを天運に委ねることとにした。と言ってもぬくぬくと屋敷の警護だけしてきたが英雄になれるなんて思っていない。


「……妥当なラインだな。判ったその提案を呑もう」


 こうして騎士への裁定は決定し、元々決まっていた遠征の準備が突貫で行われることになった。




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『大切なお知らせ』

 次の第58話を投稿ミスしてしまったので一時非公開にし明日7:00時に更新します。

 現状ストックが18話しかないので、更新頻度を一日一話に落として続きを書き始めていきます。

 優先度は【一位】はカクコン用の新作【二位】は本作、【三位】がラブコメor現実世界と異世界を行きするような奴or書きたくなったものとさせて頂きます。


【新作ラブコメ一話のみ全員に公開 URL】


https://kakuyomu.jp/users/a2kimasa/news/16818093085242748417


 ラブコメとカクコン用新作の続きを読みたい方はサポーターになっていただくか、誤字脱字&毎話事の👍いいところ👎悪いところを指摘してくれる方で限定五名程度の方に【無料】で公開します。

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