第0章 プロローグ
ACT.1 女神様によるリア充狩り講座
一話 振る美少女居れば、手を差し伸べる女神さま在り
「私と付き合ってください!」
「はっ、はい!」
緊張のあまり声が思わず裏返り、告白した側でもないのに頭を下げ手を伸ばしてしまう。
普段はボールが跳ね、掛け声と靴底が擦れる音が鳴り響く体育館も、今日が卒業式と言うこともあって静まり返っている。
その体育館裏で僕に告白をしてきたのは、同級生の|檜山《ひやま》|冬華《とうか》だった。
何も入っていないハズの机の中に、一枚の手紙が入っていた。式のあと一人で体育館の裏に来て欲しいと言う内容に、卒業式の熱気に当てられたままホイホイと出向いてしまった。
実は中学の三年間。否、小学生の頃から檜山さんのことが好きだった。
目をみはるほどの容姿って訳ではないけど、人当たりが良く愛嬌があって、陰キャ気質でオタクな僕にも優しくしてくれるオタクに優しいギャルとか〇〇さん系のヒロインのような女子。
人生経験が豊かじゃない僕は、そんな彼女の向日葵のような笑顔に既に撃ち抜かれていた。
だから中学で彼氏が出来たらしいと友人から聞かされた時には涙で枕を濡らしたし、風の噂で体験済みと聞けば血涙も流した。
この三年で約十人との交際で、ビッチだの尻軽だのと噂が流れたが僕はそれでも彼女に惹かれていた……のに……
いつまで経っても取られることのない僕の手。
痺れを切らして顔を上げると、申し訳なさそうに視線を逸らしている檜山さんがそこに居た。
体育館裏と言ってもウチの中学校は広くない。
僕が来たのと反対側からガサガサと音を立ててて出て来た生徒達は、ニヤニヤとチェシャ猫のような笑みを浮かべていた。
「テッテレー、ドッキリ大成功〜ぶふッ! あははははははははっ!」
まるでテレビのドッキリ企画のような効果音と共に現れた女子は、途中で笑いを堪え切れなかったようで爆笑してしまう。
周囲の男女も釣られたように笑い始める。
胸がキュっと締め付けられ、全身からぶわっと汗が噴き出した。
(嘘告白ってことかよ!)
怒りに震えるがそれを表に出す程、僕は子供じゃない。
この場を穏便に治める選択肢は道化を演じるか、怒りに身を任せるか二つに一つだ。
「……」
『なんだドッキリかー』『だよな、檜山さんが僕なんかに告白する訳ないもんね』
など、幾つか道化としてのセリフが思いつくが、僕の恋心を弄ばれて張り付けた笑顔で応対できる自信はない。
「|冬華《とうか》がキミに告白するわけないじゃん「「ねー」」」
女子達は僕をとことん馬鹿にしたいようだ。
僕は拳を固く握り込む。
しかし、ヤンキーとして名の知れた男子達がいるせいで暴力に訴えることも出来ない。
情けなさに涙が出そうになる。
握り込んだ拳が白くなり、爪が刺さり血が滲んで来る。
浮かれてた。この熱病のような空気に……僕がこんなモテる可愛い子に好かれる訳なんて土台ないんだ。
(なんだよこれ……結局、僕の妄想だったもう誰も何も信じたくはない……)
「勇気くん……あのっ! 本当に……」
檜山さんは僕の名前を呼ぶけどもう何も心が動かない。
その先に続くであろう謝罪の言葉には一円の価値も見いだせない。
檜山さんへの想いが何だかとても薄っぺらで馬鹿馬鹿しい気がしてきた。
もう残されているのは、やりようのない怒りと羞恥と悲しみだけこの世のどん底にでもいる気分だった。
「――っ!」
僕は訳もなく走りだした。
「勇気くん! まって……」
記念撮影や部活動の関係で残っている生徒や保護者に怪訝な視線を向けられる。
しかし彼ら彼女らには、僕の出来事なんて青春の一ページだ。
悪ければ背景でしかない。
見慣れない制服の綺麗な子が居るそう思った時だった。
彼女は僕の腕を摑んだ。
「え?」
「キミ、|岩野《いわの》|勇気《ゆうき》くんでしょ?」
「どうして僕の名前を?」
「私は|竜蛇母《たつだも》|春妃《ハルヒ》キミの姉になるものです」
姉を名乗る不審者が現れた。
僕は思わずまじまじと姉を名乗る不審者を頭から爪先まで観察する。
光の加減によっては金色にも見える亜麻色の長髪は、枝毛一つなく腰まで伸びている。
冬季制服から覗く素肌は雪のように白く、カモシカのようなスラリとした脚は美しい。
冬服は生地が厚く体型が分かりづらいハズだが、しっかりと凹凸が分かるほどスタイルがよくまるで芸能人みたいだ。
「姉って……僕には『いとこ』も『近所のお姉さん』も『幼馴染』もロクに居ないんですよ?」
指を立てて一つづつ数える。
僕の言葉に彼女はニヤニヤとした笑みを浮かべると、近づいてきて僕の手を取ると小指を立てさせてこう言った。
「『義姉』と言う選択肢が欠如しているでしょ?」
「あっ……」
確かに僕は一つ失念していた。
今日と言う日が父の再婚相手と初めて顔を合わせる日であることを……しかし、一つ違和感があった。
「で、でも! 父から見せられた写真はもっと幼かった気が……」
確かに以前見せて貰った写真の子娘の面影はあるものの、写真の年齢は小学生。
しかし実際に会って見れば同い年と言うのは結構驚く。
いっそのこと十代で出産した童顔の母親と言われた方が納得できる。
「あーそれね私、写真があまり好きじゃなくて少し前の写真しかないんだ。で、でも! 今年からバンバン撮ってくつもりだから!!」
とやけに口数が多くなる。
彼女は何かを隠していたいようにも見える……。
(怪しい……)
しかし僕は、右京さんやポワロのような名探偵ではない。
怪しんだところで何の証拠も掴むことはできない。
僕は本題を切り出すことにした。
「そうなんだ。それで、どうしてここに?」
「そうだった! 実は予約しているレストランの時間が間違っていたみたいで……もう時間がないの!」
そう言って|竜蛇母《たつだも》さんは、校舎の時計を指さした。
時刻はおよそ十二時。
|竜蛇母《たつだも》さんのお母さんの都合で、顔合わせはディナーではなく遅めの夕食にするハズだったのだが、話を聞いてみるとどうやらレストラン側の都合で早めに来て欲しいとのことだった。
「ヤバいじゃん!」
「そうなのよ! お義父さんが車を校門の前に止めてるから早く来て……」
そう言って彼女は僕の腕を引いた。
………
……
…
「なあアレ岩野じゃないか?」
男子が指さした先に居たのは、確かに岩野くんでした。
背が高く大きな体は凄く目立つ、だけど隣にいる金髪の女の子に私達は見覚えがありませんでした。
「金髪でスタイル抜群オマケに美女って……あいつ壺か絵でも買うのか?」
「確かにww」
「でもなんか見覚えあるんだよね……」
「あっ! |清中《セイチュー》の女神さまだよ」
「知ってる芸能事務所にスカウトされたらしいよね」
「はー顔だけでご飯が食べられるって漫画の主人公が言っていたけど納得できる人初めて見た」
『清中の女神』私もその言葉に聞き覚えがあった。
他校との大会であまりの美しさで男子の間で有名になったと聞いいた事がある。
(でも、どうして岩野くんと『清中の女神』さんが……)