第41話 呪い

「呪いが気になるな……」


 一部のモンスター主にレイスなどの死霊系や知性の高い一部の種族のみが用いる。

 もしかしたら呪いが原因でサラマンダーが暴れたのかもしれない。

 魔物以外で呪いを使うのは人間や亜人と言ったヒト族だ。


「もしかして他国や他領地の工作とかかな? コッロス公爵家恨みとか買って居そうだし……」


 考えていても仕方がない取り敢えず奥に進むしかない。

 奥に進むにつれ瘴気が漏れていてとても生物が住めるような環境ではなかった。


 さらに奥に進むと特に被害の大きな一角を見つけた。

 まるで教科書で習った。公害でも起きているような場所だった。

 周囲の草花は全て枯れ果て木々は葉を全て落し、立ち枯れている。


 その中心には不自然な壺が置かれていた。

 目に見えて瘴気しょうきのような煙霧体エアルゾルが吹き出しており、コレが原因だと思われる。


「間違いなく原因はこれだな……【鑑定】」


 瞳に魔力を集め鑑定眼を発動させる。


 『呪怨瓶じゅおんへい』と言うらしく、負の感情を瘴気しょうきと呪詛に変換・蓄積し放出する効果があるようだ。

 前世でも同じようなものを見たことがある。


 破滅主義者た魔王信奉者や魔族が好んで使った呪具で、高位魔族や魔王、封印されるような強大なモンスターの復活や回復、一時的な強化にも使えるらしく戦場やテロリスト共の拠点で類似したものを見たことを思い出した。


 魔王が滅ぼされた現代でも瘴気しょうきや負の感情を集め卑劣なテロ行為を繰り返している輩が居るようだ。

 まだ生きているハズの勇者やその子孫達は、一体何をしているのだろう? 



 『呪怨瓶じゅおんへい』は、瓶とは言うものその素材はガラスではなく陶器だ。

 瓶とは陶器の壺、陶器一般を意味していたようで「ヘイ」から「びん」に読み方が変わったそうで、瓶がガラス製の容器の意味を持つのは日本だけらしい。



 勇者時代と同じく【鑑定眼】に『Tipsティップス』機能があって便利だ。


「負の感情を瘴気しょうきと呪詛に変換・蓄積し放出する……それがモンスターの異常行動の真相と言ったところだろうか? どちらにせよ『呪怨瓶じゅおんへい』を取り除かなければ不味いよな」


 しかし素手で触れるのは躊躇ためらわわれる。

 スラちゃんやフェンリルの子供を見ると、耐えているのがやっとと言ったようすだ。


 結界を張り垂れ流しの瘴気しょうきと呪詛を和らげると、「少し待っていてくれ」と一声かけてその場を離れる。

 スラちゃんは身体を変形させ触手のようにすると、「頑張れよ」と言わんばかりに手を振る。


 フェンリルも「ワン」と短く吠える。

 二匹とも「頑張れ」「行って来い」と言っているようだ。

 俺は二匹を撫でると『呪怨瓶じゅおんへい』に向かって歩き出した。


 『呪怨瓶じゅおんへい』のような呪いの道具の多くは、ゲーム的に言えば不破壊属性のようなものを帯びていることが多く、物理的に破壊して「はい終わり」とは行かない。

 体力の負の感情や呪詛はそれだけでも魔術のような性質を持つ、極めて魔法に近い原始的な魔術なのだ。


 前世のころは高い魔力量も手伝ってデバフや呪いを受けても軽傷で済むことが多かったが、今世では怖いので先ずは解呪系の魔術で弱めることにした。


「【ハイアンチカース】」


 すると目に見えて煙霧体エアルゾル状の瘴気しょうき噴き出してた『呪怨瓶じゅおんへい』は、禍々しい色合いから元の乳白色に戻っていく……


「解呪できたのか?」


 俺の疑問の声に『呪怨瓶じゅおんへい』は答え白くなった場所からひび割れ、ついには砕け散る。


「どうやら破壊できたようだな」


 そう言って俺はスラちゃんとフェンリルに張った結界を解除しようとする。


 刹那。

 

 フェンリルが吠えた。


「バウ!」


 俺は即座に破壊された『呪怨瓶じゅおんへい』の方へ向き直ると、割れた瓶の周囲に煙霧体エアルゾル状の瘴気しょうきが滞留しているのを確認した。


「何が起こっているんだ?」


 煙霧体エアルゾル状の瘴気しょうきは徐々にモンスターの形を形成し、実体化する。

 その数は十や二十を優に超え数十。否、数百は下らない。


「マジかよ流石に多すぎないか?」


 このまま放置すればスタンピードが起こってしまう。

 海上輸送の拠点である『ベネチアンの街』がモンスターに包囲されれば、二次的被害も含めればその死者数や影響は天文学的なものになる。


 いくら都市や村単位にはモンスター除けの結界があるとは言え、強力なモンスターには意味をなさない。

 孤立した都市の末路は弱者から死に、最後には食人や餓死しかない。


 特にベネチアンの街は都市内に農地がほとんどないため、陸路か海路で補給を受けることを前提とした防衛計画を練っている。


 前世含め俺は一対一や一対多の戦闘はこなせるものの、多対一は不得手だ。

 理由は単純で広範囲を効率よく殲滅する術を持っていないからだ。


「ピンチって奴か?」


 渇いた笑いが零れる。

 一度距離をとり魔術を発動させる準備をする。


「装填」


――と言う言葉を合図にして次々と火球が生成・装填される。

 それはまるで回転式拳銃リボルバーの薬室に、弾丸を込めるようだった。

 複数の【ファイアーボール】はまるで数珠のように円を描いて複数俺の背後に生成された。


 全てはアイナリーゼの平行・並列術式を魔力眼で視て脳内に複製コピーしたものを再現したに過ぎない。


 複数の【ファイアーボール】が集まった集合体『火球数珠ロザリオ』を一つの魔術と定義するのではなく、大規模な魔術を構成する要素と定義することで処理を軽くしている。


 他にも射撃タイミングの変更や射角の変更を術式段階に組み込んでいないなど、幾つかの欠点はあるものの簡略化と言う意味では大変優れている。

 

 オマケにこれだけの数のモンスターがいるのだ。

 撃てば当たるボーナスステージ状態と言ってよく欠点は燃費ぐらいのものだ。

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