第32話 夫人へ相談とこれからの対策
離れに戻った俺は、汗を流し着替えるとムノー母子に渡りをつけことの顛末を報告した。
夫人の私室は広く豪奢で品のある調度品で纏められている。
俺が真似すれば下品になりそうなものだが、産まれながらの貴人と言う者は審美眼も身に着けているようだ。
ムノーマッマは、ソーサーの上に置かれた白磁のティーカップを摘まみあげ一口、口に含み口内を湿らせるとするすると喋り始めた。
「臣下思いなのは結構ですが、民の心が離れては本末転倒だと言うことを理解できないほど馬鹿ではないでしょうに……」
――と平民差別がダメな理由を感情論ではなく、統治と言う観点から避難する。
実に貴族らしい女性だ。
「ですのでミナ以外のコッロス家の直系男子に、負傷者の慰問し慰撫してほしいのです」
冒険者ギルドは王侯貴族さえも手出しできない暴力装置だ。
各国との条約によって、
全ては人類共通の敵であるモンスターに対抗するためと言っているものの、その本質はセーフティーネットだ。
モンスターと闘うことで貧困層を減らしスラム拡大の抑止と、自分は成功するんだと言う一筋の希望を与えることで、国家反逆やテロ行為の抑制と治安維持に貢献できる。
全く小原の奴は、冒険者ギルドなんていうWEB小説のあるあるを元に、よくぞここまで人を人と思わない口減らしを思いついたと思う。
奴はきっと人の心とかないんだと思う。
「道理は通っています。それで私に他の夫人に渡りを付けて欲しいのね?」
「その通りです」
「……いいでしょうただし条件があります」
「なんでしょうか?」
「あなたも慰問に行きなさい」
「しかし俺は……」
「自分で慰問を提案したのですから責任は負いなさい」
「判りました……」
「今からお話をしますので、今日はもう帰りなさい」
「失礼しました」
そう言って俺は本宅を後にする。
あの場にいた冒険者や騎士に死人は出ないようにこっそり治療をしたから大丈夫だろう。と自分に言い聞かせるもそれで快眠できるほど人間が腐ってはいない。
何かやって気を紛らわせよう。
離れの食堂に向かうと、一人酒を飲んでいるグレテル先生と目が合った。
「「あ、……」」
互いに目を逸らしお互い気に居していないと装うがぎこちない。
告白を断ったあとの関係と言うか、一夜を共にしたあとの気まずい空気と言うかそう言う「あっ(察し)」と周囲が感じる空気感だ。
「深酒はほどほどにしてくださいよ?」
「ナオス様に言われるまでもないわ」
「今日はありがとうございました」
俺のやるべきことは決まった。
今回のサラマンダー騒動でポーションの大切さを思い知った。
RPGのようにパーティーに一人は、ヒーラーがいるなんて状況は稀である。
多くの場合はポーションですませることが多い。
ポーションの効能に影響を与えるのは、素材の質、抽出度合、作成者の腕の三つだ。
ポーションは魔法薬なんて俗称が示すように、魔術の産物であり魔力が込められた使い捨ての魔道具であり、『魔道具師』や『錬金術師』の職能にあたる。
ポーションは魔道具である性質上、魔力を込めるほど性能があがる。しかし一定以上の魔力をポーションに込めたとしても、すぐに霧散してしまうので意味はないとされている。
そしてポーションは魔術の産物であるため、専用の容器にいれないとたちまち劣化してしまう。
そこで前世に思いついたのが魔力が飽和・揮発しないようにする方法だ。
その方法とは、容器に細工を施すかポーション自体に混ぜ物をすると言う二通りものだ。
今回は保存性を上げることが重要なので容器に細工を施すことにした。
幸いポーションの空き容器はついさきほどの治療のときに、アイテムボックスに回収してある。
武器を修理転売していた時に購入したナイフを使って、既存の魔法を邪魔しなように新たな魔法陣を書き足していく……
余談だがこの世界は魔術と魔法を別けているのに、なぜ魔法陣と呼ぶのかと言うと答えは簡単で、最初は大がかりな陣を描いて魔法を再現していたその名残だそうだ。
出来上がったのは、マヤ文明とかゲルマン文明とか日本の土器のような複雑な紋様だった。
型が作れれば量産できるんだけど……そんなことはさておいてとりあえず試作品を作る。
いずれカレーでも作ろうと思って買っておいた乳鉢を取り出すと、採取したり買って置いた薬草をゴリゴリとすり潰す。
勇者時代にポーションを作った経験があるのでお手の物だ。
すり潰したペーストに蒸留水を加えさらにゴリゴリとエキスを搾り出すように混ぜる。
錬金釜と言う魔道具を用いて、魔力を込め薬草汁もとい漢方薬モドキをポーションにするため釜に入れ魔力を注ぎこむ。
前世ではできなかったけど女神の加護により強化された俺なら、ポーションに回復魔術をかけることができる気がする。
「よし! いっちょやってみるか!!」
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