第4話 離れの洋館に追放された
「とりあえず中に入るか……」
ギィと軋む軸に全体重をかけてドアを押し開けた。
屋敷の中は埃っぽく、とてもじゃないが人間が住める状態ではない。
騎士の言葉は比喩でもなんでもなく、本当に維持管理をしていないようだ。
「はあ……」
深い溜息を付くと近くの部屋から掃除を始めることにした。
「水ってどこにあるんだ?」
通常は井戸や小川、魔道具など様々な方法で水を確保する。
古いとは言え昔は屋敷として使われていたから、多分どれかはあるハズだ。
屋敷の周囲を歩くと古井戸を見つけた。
しっかりと蓋がされていたのでゴミは入っていないようだ。
先ずは身体に付いた汗や血、泥を洗い流しタオルで拭うと、今晩の寝床の清掃を始めた。
日が暮れる頃には何とか部屋の掃除は終わり、腹を空かせて夕食を待っていると屋敷のドアがノックされる。
ドアを開けるとそこに居たのはメイドだった。
「夕飯でございます」
彼女の持ったトレイの上には、屑野菜のスープとパンが乗っているだけだった。
「これだけ?」
不意にそんな言葉が口を付いた。
「コッロス公爵家小さいなぁ」と言う言葉だけは気合で飲み込んだ。
「そのように仰せつかっております」
「あ、そう……」
「朝、夕お食事をお持ちしますのでお忘れなく……」
そう言うとメイドは一礼をして本邸の方へ戻っていった。
俺は前世で身に着けた技術の再習得に精をだした。
翌日から前世で得た知識と経験を活かし、どうやったらもっと上手くなれるのか? 強くなれるのか? と常に考え思いついたものを全て試し、少しずつ身に付けて行った。
先ずは体力作りから始めた。
前世のように剣を振るにしても、魔術メインに立ち回るにしても、筋肉は最後まで裏切らない。
散歩と称し外を歩いたり、屋敷の清掃をし基礎体力を付けながら、無心で剣を振るう。
朝に二千、夕に三千。
なぜか屋敷のなかにあった練習用の柱に打ち込み訓練に励んだ。
魔術とは魂に術式を刻んで使用するもので、魂の強度や大きさには個人差があるらしく、前世では後悔した仲間も多かった。
しかし一部の魔術はその制限を受けない。と言う話を訊いた事があったので、折角の期会だからと身体作りの合間に試行錯誤をしていた。
魔力ゼロと診断されたのは、ほぼ間違いではなかった。
恐らく対外に無意識で放出されている魔力から、その人物の魔力保有量を判断しているのだ。
しかし俺は産まれ付き魔力が微弱でオマケに、ほぼ完ぺきに魔力をコントロールしていたお陰でゼロと判断されたようだ。
前世の経験から魔力量を増やすには、魔力を使い切るか死の淵を彷徨うような経験を積んで、一皮むけることが効率が良いと知っていた。
この魔力の増大には壮絶な苦痛が伴った。
しかし体力が尽きた後それ以外特にすることもなかったため、俺は毎日のように魔力を消費したり、わざと毒を摂取したりして体内魔力を少しずつ増やしていった。
誰の嫌がらせかは判らないが、残飯や痛んだモノを食べ食中毒になった事もあった。
滝のように滴る脂汗と体液で全身をびしゃびしゃにしながら、腹痛で一睡も出来ず悶え苦しんだ時だった。
「必要は発明の母」「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」と言う言葉がある通り、「神様、仏様許してください。何でも言うこと訊くから……」――と心の中で祈ったことが幸いしたのか、三桁いかないぐらいで前世では使えなかった回復魔術の習得に成功した。
そんな経験もあって俺は、魔力の増大と魂に術式を刻むことなく魔術を行使できるようになった。
一度は手に入れた身体と技術だ。
二度目の習得だけあってその速度は凄まじいものだった。
前世で俺は『勇者』と呼ばれるに至った。それは異世界人でこの世界の人間よりも、才能があったことは否定しないがそれよりも、明確な目標を持って努力を積み重ねたからだと考えている。
「元の世界に帰るために魔王を倒す」そのために、どうしたらもっと上手く強くなれるのか? 思いついたものを全て試し、少しずつ前進していったと言うのに……直ぐに力が手に入った。
戸惑う部分もあったが、前世で一度修めた技術なのだ。
知っているのに知らないフリをするほど俺は賢くない。
今生は楽しく生きると決めたんだ。そのために前世の知識や経験を使うことは正しいのだと考えた。
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