第3話 兄弟に負け見捨てられる
―― 一〇年後。
カラン、カランと音を立てて木剣が石畳の上に転がる音が聞こえる。
「真面に剣も振れないとは! 本当に俺の子か?」
正妻とその子供達からの虐めを止めようともしなかった父は、心底期待外れとでも言いたげにポツリと呟いた。
金髪碧眼で長身のイケメンである父傍らに居るのは、父の夫人や子供その侍女達だ。
まるで草花でも鑑賞する見たいに、婦人達はドレスで着飾り侍女には日傘を差させている。
子供達は皆健康的な肌色をしており、異様なほどに白い俺とは対照的だ。
それもそのハズ真面に屋敷から出して貰えぬ不健康な生活と、満たされぬ食事をしていた今の俺が、年上の兄弟と試合を出来る道理はなかった。
ぜえぜえと肩で息をして硬い石畳に手を付いてた姿を見下しているのは、半分だけ血の繋がった兄だった。
父に似て無駄に整った顔立ちも、その性悪そうな笑みで台無しになっている。
先程まで俺を殴りつけていた木剣には結構な量の血が滲んでいるが、そんなことは「大したことではない」とでも言いたげに肩をトントンと叩いている。
「お前弱すぎだろ? 平民の血が混じると高貴な血も霞んで弱くなるのか? 魔力も無ければ武芸の才もない。お前は本当に無能だな……」
魔術で身体能力を強化しようとも、基礎体力の低さはどうしようもない。
むしろ体力をより多く削られる。短期決戦でカタをつけるつもりだったが、流石は騎士団長の息子、基礎が出来ている分強い。
遠目から俺達の様子を見ている騎士にしても――
「ナオスはダメだな」
「ああ、あの女の血が不味かったのだろう」
――と今世の母を馬鹿にするばかり。
「父上こんな無能に期待するだけ無駄です。折角ですから俺に剣を教えて下さい」
「……そうだなこの無能にほんの一欠けらでも期待したのが間違いだった。ナオス・コッロス貴様は、今日から今は使われていない離れに移り、名を改めただの平民ナオス・スヴェーテと名乗れ、我がコッロスの家名を今後名乗ることは許さん! 連れていけ。」
父は使用人に何かを伝えると、やって来た使用人に連れられ俺は離に連れてこられた。
「公爵様もお優しい。無能なお前を育てて下さるんだからな」
「魔力ゼロで剣才もない……本当に公爵様の種なのかも疑わしい」
「幾ら顔が良くてもしょせんは平民腹の子、もしかしてお前本当に公爵様の子供じゃないかもな!」
ギロリと騎士を睨み付ける。
「「「……」」」
騎士達は顔を見合わせると、ニタリと気持ちの悪い笑みを浮かべこう言った。
「身の程を弁えろクソ餓鬼!」
両方から支えられていた手を離されると疲労からか足がもつれる。
「おっと……」
すると背後から蹴りを入れられ転がってしまう。
「今日からここがお前の家だ」
全身が痛む身体に鞭を打って顔を起こす。
そこに建っていたのは、蔓草に覆われた石造りのゾンビでも出そうな立派な洋館だった。
「ボロくて声も出ないか? この屋敷はな先代様の威光で残してあるだけの廃墟だ。何でも勇者様御一行がこの領地を救ってくださった時にお泊りになられたらしい」
「公爵様も先代であるお父上のお言葉だから、誰にも使わせず残していたそうだが取り壊す理由が出来たとお慶びになるだろう」
「成人を迎えるまで大人しくしていれば、食いっぱぐれることだけはない。精々剣や魔術に励むんだな……まあ誰もお前に教えることはないだろうけど」
と言うと三人でゲラゲラと馬鹿笑いをする。
品性の無さは騎士と言うよりも、世紀末のヒャッハー共のようだ。
そんな彼らは俺一人だけを残してこの場を後にした。
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