第2話 世界を救った勇者は公爵家の庶子として転生する


 全身を包み込む熱い何かが絶え間なく俺を締め上げる。

 しかし不思議と嫌な感じはない、むしろ心地よいぐらいだ。


 そして――室内にいる人々の心を震わせる声が響いた。


「う、産れました!」


 聞き慣れない若い女の声が聞こえる。


産まれた? 一体何が?


 そんな疑問は直ぐに吹き飛んだ。


「あ、赤ちゃんは……?」

「どうして泣かないんだ!?」

「わ、わかりません!」


 女性達が心配する声が聞こえる。

 どうやら赤ちゃんが産まれたらしい。


女神は約束を叶えてくれたと言うことだろうか?


 息が出来ない。

 呼吸ができずにもがき苦しんでいると、お尻の辺りに衝撃が走る。


――バシン!


なぜ尻を叩くんだ!


 そんな疑問に答えることなくすもう一度ケツが叩かれる。


――バシン!


 はたくとかそう言うのじゃなくて、体を揺さぶる……そんな衝撃が何度も走る。

 痛みと衝撃に耐えられなくなり口から声が漏れる。


息が出来た……


「えっえっ……ふぎゅあ、ほぎゃぁああぁぁぁぁぁ――――!!」


 喜びと同時に赤子も泣き始める。

 ……泣いているのは赤ちゃんではなく俺だ。

 目も耳も遠い。

 死に際女神を名乗る者の声を聞いた。


 どうやら幻聴ではなく、本当に願いを叶えてくれたようだ。

 二度目の人生を願ったもののいざ叶えられるとどうしていいのか判らない。

 

「奥様、もう大丈夫ですよ!」

「誰か御当主様をお呼びして!」

「奥様、お身体起こしますね」


奥様? 御当主様? ……もしかしてキラキラネームってやつか? 


――そんな訳はないと即座に思考を否定する。

どうやら俺は、王侯貴族の子供に転生したようだ。


「早くぬるま湯を……」

「生まれてきてくれてありがとうナオス」

「……奥様、ナオス様をこちらに……」


 暖かくて大きな手が頭を撫でる。

 体温と愛、その二つをひしひしと感じる。

 それはまるで母の温もりそのようだ。


 頭を包み込む温かさは冷め、女性の胸に抱かれている。

 乱暴な足音を立てて誰かが入ってくる。

 すると横柄な口調でこう言った。


「無事に産まれたそうだな。男か?」


 開口一番が性別の確認って時代錯誤な……まあ旧家ともなれば跡取りは男と言う考えが根強いのだろう。


はあ仕来りとかめんどくさそうだ。


「―――っ!! 御当主様この度は御子息の御誕生お慶び申し上げます」


「うむよくやったは無事に女の役目を果たした。ナオスは可能性は低いが家を継ぐこともあるやもしれん」


「例のモノを……」


 父が命じると如何にも魔術師と言う見た目の老人が大きな水晶を持って現れた。

 

産まれた直後に魔力測定をするんだな……仕方がないこととは言えこの世界の魔術至上主義にも困ったモノだ。


「失礼いたします……」


 老魔術師は一言断ると俺の身体に水晶を押し当てる。

 しかし何も変化することはない。


あれ? おかしいな? 前世なら直ぐにでもピカって光ったのに……


「……」


 老魔術師の声に成らない声が聞こえた。


「……殿下の現在の魔力はゼロです」


 老魔術師の言葉を訊いて父が声を荒げる。


「なんだと! 俺の息子に魔力が無いと申すのか!?」


「『魔力は成長と共に増える』とされています。そう悲観することはないかと……」


 凄く嫌な予感がする。


「……俺の血を引きながらも魔力がないとは……やはり母親が平民ではな……」


 そう言うと男はその場を後にする。


ど、どうしてこうなったぁえっ……ふぎゅあほぎゃぁああぁぁ……」


あれ……なんか急に眠気が……


 瞼が重たくなっている。

 普通の赤子と違って問題なく目も耳も聞こえているのは幸いだったな…… 


しかし、これからどーしよう……


 俺は睡魔に負け眠りに着いた。 

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