恋愛弱者が頑張ってはいけないのですか? 02
決意をして早々……というべきかどうかはわからないが、翌日には俺は既にへたれていた。本当に告白をしても大丈夫だろうか。久美さんとの待ち合わせ30分前。待ち合わせ場所である駅の改札口にて俺は自分の中の弱虫と必死に戦っていた。
別に卑屈になっているわけでもなく、良い返事を貰える気がしない。
片や♡(いいね! みたいなものだ)の数がカンストしている会員で、片や恋人いない歴=年齢である。ウーロンがフリーザに挑むようなものだ。だが同時に俺の中では進撃の巨人のテーマが流れ始める。
――戦わなければ勝てない。
そう、恋愛だって同じだ。告白しなければ付き合えない。俺は獲物(久美さん)を屠る(手にする)イェーガーにならなければならないのだ。鳴き始めた弱虫を叱咤して俺は腹に力を入れ直す。
「綿太郎君、お待たせ」
「!」
何度聞いても、何度見ても慣れない声と姿だ。自分の顔に熱が集まるのが分かる。
久美さんは白いシャツに黒い細めのパンツ、そして羽織るためであろうカーディガンを腰に巻いたシンプルコーデ。だがシンプルが故に久美さんそのものの素材の良さがハッキリと浮き彫りになっている。モデルのような高身長にスラっと長い手足。だが、細いだけでなく胸やお尻はその形をハッキリと主張しており……ってイカンイカン!
女性は男のそういう視線には敏感だと聞く。すけべな目で見てたらこれまで長い時間をかけて培った信頼が土台から崩れ落ちる。
「? どうしたの綿太郎君? 変かな?」
雨に濡れた犬のように首をブルブルした俺の顔を久美さんは怪訝そうに覗き込む。……ち、近い!
「い、いえ! 大丈夫……です! き、今日も……」
「今日も?」
小田切からもらったアドバイス――とにかく褒めろ。下心が透けて見えるのは論外だが、女性は幾つになっても可愛い、綺麗と言われて嬉しいとのこと。逆にこれらを言われないと自分は女性として見られていないのではないかと不安になるらしい。こんなことを言うのはチャラ男だと思っていた俺からすれば目から鱗な情報だ。しかし、
――今日も綺麗ですね。
そう続けようと思ったところ、言い慣れないことを言おうとしていることによるものか俺の喉から言葉が続かない。
「き、今日も……よろしくお願いします」
「う、うん? よろしくね」
――嗚呼、もう俺のバカバカ!
俺が脳内でヘタレな自分を罵りながら格闘ゲームで言うハメコンボで痛めつけていると久美さんはちょっぴり不満げな表情を浮かべる。
「よろしく。……それと綿太郎君?」
「は、はい?」
「敬語」
「あ」
そういえば敬語つけなくて良いって言われたのについ癖で使ってしまっていた。
「確かに私の方が年上だけど、あんまり敬語使われ続けると寂しいなあ」
「ああッ、その……えと、すみません!」
「……すみません?」
「……!」
シマッタ! 俺には学習能力がないのか!
だが同時に気が付く。寂しいという久美さんの言葉は嘘ではないだろう。それと同時に慌てふためく俺の姿を見てはニマニマと楽しそうでもある。つまり、俺を揶揄っているのだ。……なんだか悔しい。
「……ごめん。緊張して忘れちゃってた」
「緊張? なんで?」
久美さんはわざとらしく小首を傾げる。そんな何気ない仕草も絵になる。それを堪能したい気持ちに蓋をして俺は言おうとしていたことを続ける。
「何回会っても、久美さんが、き、綺麗だから……!」
「……! い、言うじゃん……」
久美さんの顔がほんのり赤くなってる辺り反撃は成功したらしい。良かった。心の中のリトルオダギリに感謝だ。
⭐︎
小田切に言われてみてから振り返ってみるとデートを何回も重ねるデメリットとしては付き合う前にも関わらず、行く場所がなくなってきてしまうということがあることに気がついた。
食事に映画、水族館、買い物、スポーツ観戦、カラオケ等々。近場の所は大体行き尽くした。付き合う前から前と似通ったプランになってしまうのだ。そうすると付き合う前からマンネリ化して、「この人と付き合っても退屈かも……」と思われてしまいかねないのではないだろうか。自分の恋愛経験の乏しさが恨めしい。
そんな今日のデートプランはこれだ。
カフェでランチ、その後映画を観に行き、またカフェ。その後運動施設で軽く体を動かしてから夕飯だ。ここまでだと普通を極めたデートだが、この後に告白というオペレーションがある。食事の後に夜景が綺麗なスポット(既にリサーチ済み)に行き、そこで告白する。このプランは小田切からもお墨付きをいただいている。王道過ぎる気もするが、俺みたいなのは逆に変に奇策にはしると碌なことにならない。
そんなわけで今はその大事な告白前のディナーだ。告白というエネルギーを使うミッションを前にしっかりとエネルギー補給をしたいが、緊張のあまり味がわからないどころか食事が喉を通らない。あんなに美味しそうなのに……。
「大丈夫、綿太郎君? 体調悪いの?」
挙げ句の果てには心配までされてしまった。
「い、いや……大丈夫……」
「ほんとに? 今日色々なところに連れて行ってもらったし疲れてるんじゃない? 無理してない?」
「い、いや……! 本当に大丈夫! その、これから大事なことがあるので緊張してるだけで」
「大事なこと?」
「あ」
――バカか俺は!
恋愛経験皆無の俺でもわかる大失策。あばばば、ど、ど、どどどうしよう……ッ!?
「えーと、その大事なことなんですが、そのなんと言いますか、その大事なことに気を取られてて久美さんのこと疎かにしてるとかではなくて、むしろ久美さんののとを考えてたというか……」
――って本当に大馬鹿か俺は!
語るに落ちるとはこのことか。もう取り返しのつかないほどの大失策をやらかしたことだけは明らかだ。
俺が自分の至らなさに頭を抱えていると、久美さんはニコリと笑う。
「そっか、じゃあ頑張らなくちゃね。……期待してるよ?」
「え」
「だって大事なことなんでしょ? それに私に関係ないこともないみたいだし? だから期待してるよ」
「……」
包み込むような柔らかな笑みでそう言われると俺はコクコクと無言で頷くほかない。
エネルギーが必要なのでなんとかご飯は食べたが、味は変わらずわからなかった。
⭐︎
「ここを登ると街全体を見渡せる場所があってすごく綺麗みたいだよ」
「……そうなんだ。楽しみ」
俺達は今2人並んで歩いている。さっきから無言の時間も長いが、その沈黙について気まずく感じることはない。それは何故だかは言語化することができないけど、おそらくさっき久美さんがそういう空気にしてくれたんだと思う。
これからあと数分後には有名な告白スポットで俺は久美さんに告白する。さっきから久美さんもそれを感じ取っているのか、少し恥ずかしそう。……もしかしてこれ勝算あるんじゃないか?
「着いた……」
「へえ……ここが……って……!?」
「どうしたの……ってんんッ!?」
久美さんが突如フリーズしたのであまりに綺麗な景色に心を奪われたのかとおめでたい勘違いをしたが、残念ながらそうではない。
綺麗な景色とは異なる……とまでは言っては失礼かもしれないが、桃色の空気が広まっていた。
……そう、ここは告白スポット。同時に定番のデートスポットでもある。裏を返せばカップルがたくさんいるということ。
言葉を選ばずに言ってしまえば非常に多くのカップルがデートスポットであることをいいことに人目を憚らずイチャコラしていた。手を繋いで夜景を眺めているというロマンチストはごく少数で、最低でもキス、大人のキスをしながら腰に手を回したりお互いの服の中をまさぐっている者までいる。――ここはホテルじゃないんだぞ! ホテルか自分の家でやってくれ!
年齢=いない歴の俺には刺激が強すぎる光景だ。そして、隣にいる久美さんになんか言わなければ。久美さんも気まずそうに目を逸らすだけだ。そりゃそうだ。彼氏でもない男にいきなりこんな所に連れてこられたら何かやましいことを考えているのではないかと疑ってもおかしくない。早く弁解をしなければ!
「あの、久美さん。ここはちょっと一旦離れて――」
「あれえ? 綿太郎じゃーん」「え、ウッソ!? マジだウケる」
聞こえてきた軽薄な声。無視して気付かなかったフリをしてその場を去れば良かったものの、一瞬でそこまで頭が回らなかった。思わず振り向いて声のした方を見ると俺は自分の運のなさを呪った。そこにいた1人は昨日の飲み会にもいたメンバー。ゼミの女子の中では流行に敏感で先輩ウケ(特に男)が良く、恋愛経験豊富。そして、俺のことを事あるごとにバカにしていた奴だ。そして、その隣にいるのが先輩にも関わらずその女のシンパで俺のことをやたらバカにしてきた大嫌いな男だ。何故か俺に当たりがキツく、ことあるごとにパシリにしてきた嫌な奴だ。
「……どうも」
綿太郎なんて名前はそうそういないので無視するわけにもいかない。小さく会釈して立ち去ろうとするが、当然それが許されるはずもない。2人は俺の進路を遮るように立ち塞がる。
「おい。返事聞こえないんだけど?」「ちょっと凄むのやめてあげてよ。綿太郎泣いちゃうでしょ?」
――こんなことで泣くかよ、バカやろー。
そう言いたいが声にならない。
この先輩(桑原)が俺のことを意味もなく攻撃して同期(三春)がそれをフォロー(?)するのがお決まりの流れだ。いつもだったら笑ってやり過ごすところだが、今日は違う。今日は久美さんが隣にいるんだ。好きな人が隣にいるのにこんな弱者をいたぶるようなやり口の矛先を向けられているということが惨めでたまらない。
「……綿太郎君、この人達は?」
「……一応大学の先輩と同期」
久美さんが様子を窺う。そこで2人は初めて久美さんに気が付いたのか目を丸くする。
「え、ウソ……?」「か、彼女……?」
「いや、その……彼女ではないんだけど……」
嫌われてはいない自信はあったが流石にこの勘違いはあまり良い気分はしないだろうと訂正を入れる。俺の訂正に2人は安心したような顔をするとまたすぐにこっちをバカにしたような表情になる。
「そうだよね。いくらなんでも綿太郎にこんな素敵な彼女さんあり得ないよね。びっくりさせないでよ」
「そうだよな。知ってます? コイツ生まれてこの方彼女できたことないんですよ?」
「へえ……」
急に調子に乗って喋り続ける2人。久美さんは相槌を打っているものの、その表情は窺えない。
「アレウケたよねえ。私らが入っての最初の合宿の時。夜にあみセンパイの名前使って呼び出したらまんまと綿太郎釣れちゃって、1時間以上待ってたの」
「あー、アレな。マジ童貞丸出しだったよな。あみ彼氏いるって言ってたのに期待しちゃってよ。おめー如きにあみが惚れるわけないじゃん」
「……ッ!」
こういう具体的なエピソードを掘り返されるのが1番辛くて心にくる。何より久美さんの前で話して欲しくなかった。怒りと羞恥心でどうにかなりそうで、本気でこの2人をぶん殴ってやりたかったが、そんなことをする勇気などない。いくら久美さんが俺のことを憎からず思っていてくれたとしても俺のこんな情けないエピソード聞いたらガックリくるだろう。……嗚呼、終わったな。せっかく良い感じだと思ったのになあ。
「とりあえず、お姉さんも気をつけた方が良いですよ。コイツ恋愛免疫まっっったくないから変に優しくすると発情しちゃいますよ?」
「ええ……綿太郎がそういうオス丸出しなのなんかきしょーい」
グサグサグサグサ。
言葉は凶器だとコナン君も言ってたっけ。……本当だ。人は言葉で簡単に殺せる。そして殺してる側はそれに無自覚なことが多い。さも場を盛り上げるために、自分達が愉しむ為にギャハハゲラゲラと下品に笑い声をあげ続ける。帰りたい。……いや、死んでしまいたい。久美さんにもさぞ失望されたことだろう。
「だからさ、お姉さん。綿太郎なんかとデートしてると黒歴史確定ですよ? ましてや付き合ったりしたら生涯の恥確定。だから俺達と遊びましょーよ」
「ええ、健太郎美人2人たぶらかすつもり? サイッテー……」
「そう言うなって! 人助けだよ、人助け!」
「……だけ?」
「「え」」
「言いたいことはそれだけ?」
「――ッ」
一瞬その声が誰のものか分からなかった。久美さんの聞いたことのない低温の声に自分の身体の芯が冷えた。久美さんとは10回も会っているから流石に分かる。今、久美さんは怒っているのだ。“怒り”という感情はそれの主が誰であれ恐ろしいものだ。
「あれ? もしかしてお姉さん怒ってます? でも俺達は親切心で言ってあげてるんですよ?」
「……ねえ、もう行こうよ」
同じ女性同士、三春は何かを感じ取ったのか立ち去ることを提案するが桑原はそれを聞き入れる様子がない。
「せっかく美人なのにこんな奴と交流あったらお姉さんの価値も下がりますって。俺が教えてあげますよ、大人の恋愛を……っていって!」
桑原が馴れ馴れしく久美さんの肩に手を置こうとしたところで久美さんはその手を払う。
「こんな人をバカにするのが大人だというなら私は一生子供で構わないです」
久美さんはアーモンド型の瞳でキッと2人を睨み付ける。
「貴方達は綿太郎君と私より長く接してて、その良さが分からないんですか?」
「はあ? んだよ、いきなりキレ始めて……」
「自分の好きな物事を他人にバカにされたら怒るのは当然でしょう。何かをバカにするというのはそういうことなんです」
久美さんがそう言うと桑原と三春は急に勝ち誇ったように笑い始める。
「え、こんな奴のこと本当に好きなの?」「……わたし同じ女として言うけど、綿太郎は恋愛経験もないしやめといた方が良いよ」
久美さんに向けられた怒りにあてられてか2人とも敬語が既に外れている。
「恋愛経験がないことがそんなにダメなこと? 誰だって最初はそうでしょ。ただ早いか遅いかの違い」
「それが遅いのがダメだって言ってんの! わっかんねえなあ! それだけソイツには男としての魅力がないってことなんだよ!」
「周りが綿太郎君の良さを見落としていたってこと、つまり貴方達に見る目がないって可能性は考えてないんだね。それに男としての魅力なんて千差万別でしょ。知ってる? 綿太郎君は英語が話せないのに困ってる様子の外国人がいたら声掛けちゃうんだよ。迷子の子どもがいたら親が見つかるまで励まし続けるし、力がないのにお婆ちゃんの荷物を運んであげたり……」
そこまで言うと久美さんは一度言葉を区切る。
「1人泣いている見知らぬ女に声掛けてくれるんだよ……!」
最初に言ったのはどれも久美さんと会ってるタイミングに起きたことだったが、最後の一個はなんだ?
俺が自身の記憶を辿っていると桑原が唾を飛ばしながら反論してくる。
「それはコイツが女に縁がないからあわよくばワンチャンって思ってたんだろ」
「見る目ないんだね」
「ああ?」
「そんな風にしか見ようとしないから綿太郎君の良さが分からないって言ってるんだよ!」
久美さんが俺の為に怒ってくれている。その事実そのものは嬉しいけど、俺の中では依然として惨めな気持ちがある。いや、むしろ今の方がそれは大きくなっている。
さっきまで落ち着いていた久美さんが声を荒げたことで桑原は目に見えて狼狽しているが、プライドなのかこちらを睨み付ける目から戦意が消えることはない。その矛先は再び俺へと向けられる。
「おい、てめえ。女にだけ話させやがってみっともねえなあ!」
……みっともない。確かにその通りだ。庇われて、そのくせ俺自身は何も言えない。さっきから桑原や三春に過去に言われた色々な言葉がフラッシュバックしては自分の中で染み渡り、毒や呪いのように蝕んでいく。
「そうだよ。いっつも綿太郎ってそうだよね。自分の意見を言わない……いや言えない。そんなんだから女の子からは頼りにならないって言われちゃうんだよ」
「いいご身分だよなあ。ありのままの自分を認めてくれるに守られて、テメーは何もしない。ほんっとみっともねえなあ!」
「いい加減にしろよ」
俺が何も言い返せないのをいいことに集中砲火を続ける2人に更なる低温の言葉が。その声の主は久美さんだ。その声はさっきより更に冷たく、ハッキリと怒りの感情が乗せられていた。
久美さんはツカツカと近づくと桑原の胸ぐらを掴む。
「みっともねえのはどっちだよ。言われてる本人が何も言い返さないのをいいことに好き勝手言いやがって。こちとら楽しくデートしてたってのに、水差すんじゃねえよ」
「ひッ……」
別人のように口調と目つきが違う久美さん。威勢の良かった2人は一瞬で黙り込む。俺はその光景を見ながらあることを思い出していた。
「さっきから言ってるけど、てめーらも最初は何事も未経験だろうが。たまたま人より経験してるからって未経験を馬鹿にすんじゃねーよ」
久美さんのフルネーム――矢ン木久美――を初めて聞いた時から引っかかっていたのだ。
「ガキならまだしもお前ら2人とも大人だろ? 社会人だろ? 恋愛でしか物事を測れないとかみっともねえのはそっちだろうが。他に誇れるものが何もない証拠だろ」
通称ヤンクミ。弱きを助け、強者を一方的にボコリ、自分の仲間に加えていったという伝説のヤンキーの噂のことだ。当時は金髪だったはず。髪の色や雰囲気が全然違うから気付かなかった。
「女だから殴られないって思ってんのか? 好き勝手言いやがって! 俺達はお前より長くそいつのこと見てるから分かるんだよ。そいつはいつも肝心な時に失敗する。あみのことだってそうだし、ゼミの発表の時もあがって大失敗だったよなあ?」
「……っ」
飲み会で取り上げられる俺の定番の失敗エピソードだ。俺の中では毒が回り続けている。
「失敗しないなんてことあり得ないだろ。それを言うんだったらテメーらも現在進行形で失敗してるだろ」
「はあ? なんの話だよ! ……ぐえッ」
久美さんは更に胸ぐらを強く締め上げると鬼の形相で桑原を、そして隣で怯えた目つきを浮かべている三春を睨み付ける。
「私の前で私の好きな人のこと馬鹿にしたことだよ」
「……ッ! いってーな! いい加減に離せよ!」
咳き込みながら喚く桑原になお怒り狂った肉食獣のような目つきを向ける久美さんは続ける。
「これに懲りたら2度と綿太郎君に関わってくるな」
「……ひッ、ね、ねえ……もう行こうよ……」
「ちッ」
この場でのやりとりは非常に注目している。周囲のカップル達は明らかに桑原と三春の2人に冷ややかな視線を送っている。2人はそれを感じ取りバツが悪そうに立ち去って行った。
その背中をしばらく睨み付けていた久美さんはふぅと軽く息を吐くと再び穏やかな顔つきに、そして俺を見ると心配を隠しもせずに近寄ってくる。
「大丈夫、綿太郎君?」
「……」
その心配そうに覗き込む瞳を見て俺の中で、怒りといった感情はおさまった。だが、逆に惨めさがどんどん込み上げてきて、
「……綿太郎君!?」
俺はその場で踵を返して、走り去ってしまった。
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