恋愛弱者が頑張ってはいけないのですか?01
「ええ〜、
ゲラゲラと盛り上がるこの飲み会の場において恐らく俺――
俺にとって決して愉快でないこの場は大学のゼミの飲み会だ。類は友を呼ぶという言葉はあるが、何故か陽キャが集まるこのゼミに俺は4年間所属していた。大学を卒業して3年以上経つが、時折こういった飲み会の場が開催される。大学の時からであるが、飲み会の場ではどういったわけかこういう具合に俺をイジる流れになる。……いや、というより恋愛の話になると必然的にそういった浮いた話がない俺をイジる流れになるんだろう。
最初は酷く腹を立てたし、惨めな気持ちになった……いや、惨めな気持ちは今でも同じか。2度とあんな飲み会参加してやるものか、こんなゼミ辞めてやると何度思ったか分からない。だが、そういった行動を取った後にどう思われるかを考えると身動きが取れなかった。
そんな俺が身につけた処世術は、笑顔を貼り付けて愛想笑いを浮かべることだ。
「はは……そう言わないでよ……」
……俺は果たして今上手に笑えているだろうか。
⭐︎
「ほーん、そんなことあったんか」
例の飲み会が終わるまさしくその瞬間、まるで見ていたかのようなタイミングで連絡を寄越した小田切晃と今度はサシで飲んでいる。
小田切とは中学高校と同じサッカー部で切磋琢磨――はするまでもなく実力は奴の方が格段に上だったが、それとは関係なく仲良くしていて今でもこうして定期的に会っている仲だ。家が近いのもあるだろう。
小田切はサッカー部時代は坊主頭に熱血漢とやや時代に逆流した感じだったがやけにモテたし、今でもモテている。一体奴と俺どこで差がついたのか。慢心、環境の違い……。
「そんなしょーもない雑音気にすんなよ。そもそもそんな飲み会行かなきゃ良いのに。……というかお前今良い感じの人いるんじゃなかったっけ?」
「うえッ!?」
俺が思考の海に沈んでいると小田切から唐突に切り出される。そう、今までウソ告白の被害多数、クラスやゼミの女子参加の“良い人止まりランキング”堂々一位という不名誉な王座を手にしている俺にもついにチャンスが巡ってきているのだ。
その相手は小田切に勧められるがまま始めたマッチングアプリを通じて出会った。こう言うのもなんだが、とてつもなく綺麗な人でTHEモブの俺とは不釣り合い感が凄い。
最初はマッチングアプリなんて怖いし、自分の顔やプロフィールを晒すことへの抵抗もあった。だけど小田切が言うには今やこのマッチングアプリを通じての交際、そして結婚なんて当たり前とのこと。そんな言葉を受けて恐る恐る初めてみたが、黙ってても彼氏ができそうなくらい綺麗な人がいっぱいいてびっくりした。なかなかマッチングしなかったり、急にメッセージが返ってこなかったり、業者に騙されそうになったりと嫌なこともいっぱいあったが、明日会う相手――矢ン木久美さん――はそんな中で偶然出会った相手だ。当然人気会員だったが、ダメ元で送ってみたらまさかのマッチング。やってみないと分からないものだ。
「あ、ああ……うん。一応明日会うことになってるけど」
「お、マジか。今日は遅くならないようにしないとな。まあ、俺も明日はデートだけどな」
俺の言葉に小田切は心底嬉しそう。軽いが良い奴だ。
小田切も職場の同僚や友達に紹介してもらったりと女の影が途切れることはない。一歩間違えれば凄まじく嫌われそうなムーブだが、不思議なものだ。
「初めてみて良かったろ、アプリ?」
「まあ……うん」
「綿太郎」
俺の返事を聞いて小田切は少し真剣な面持ちになる。
「お前に足りないのは自信だよ」
「自信……」
そういえばサッカーやってた時も同じようなことをいわれたっけ。
「お前は昔も今も誰よりも頑張ってる……とまではいかなくても自分のできる範囲のMAXをやってるよ。だから自信持てよ」
「小田切……」
いかん、今日あんなことがあったのもあって泣きそうだ。小田切も照れくさくなったのか俺から視線を逸らしカラッと笑う。
「……で、久美ちゃんだっけ? 明日で会うの何回目なんだ?」
「……10回目」
「10!?」
俺の返答に小田切がひっくり返る。
「10って……え、10!? マジで、え、ちょっ、マジで……10!?」
「いやだからそうだってば」
珍しく取り乱す小田切は新鮮だ。
「あのな、綿太郎。前にも話したことあるかもしれんけど一般的には告白のタイミングは3回目のデートだと言われてる。つまり、お前は平均の3倍以上の時間を掛けてることになるんだがその意味はわかるか?」
「いやだって、アレだろ。そもそもこれは美人局じゃないかって疑いが取れるまで3回。美人局じゃないにしてもこの人はメシモクじゃないかという確信に至るまで3回、そして友達として仲を深めるのに3回は会うの必要だろう」
「友達までのハードルがいやに高いな」
だって知らない人怖いし。
「こう言ってはなんだけど、なんで今まで綿太郎に彼女ができなかったかわかった気がするよ」
「え、そんなに? そんなに俺の基準ダメだった?」
「あのな」
小田切は再び真面目な顔になる。
「綿太郎の自信がないことからくる努力や他人への優しさ、謙虚さは俺にはないものだから素直に凄いと思う。だけどな、謙虚さはいきすぎると卑屈さになる」
「!」
“卑屈”。そのワードに俺は思わずピクリと反応する。
「そして卑屈さは自分を好いてくれている人達に対しても失礼なことだ。だってそうだろ? 自分を肯定してくれる人達に対して、自分でNOを主張するわけだからな」
もちろん主張は自由だけど、と小田切は付け加える。
「俺としては褒めたら素直に受け止めて欲しいし、それを否定されるのは割と傷付くもんだよ。まあ、俺のことはさておき。久美ちゃんもせっかくマッチングしたのにそんな疑いを持たれ続けるのは少し可哀想じゃないかな」
「……」
俺は自分と久美さんの立場を変えて考えてみる。
「確かに。好意で会ってるのにそう思われてるのって嫌かも」
「まあ、もちろん疑いを持つのは思考停止で妄信するよりは全然いいさ。それに皆が皆良い人間ってわけじゃないし。でも俺は綿太郎自身の目を、10回も会おう、会いたいってなった綿太郎自身の感覚をもっと信じても良いんじゃないかと思うよ」
確かに俺は自分で言うのも変だが、自信がない。そういう態度が透けて見えるからか他人の悪意や狡さに晒されて嫌な思いをすることが多々ある。逆にそういう経験をしてきたから悪意とかには割と敏感な方だ。
「……分かった。俺、次会う時に久美さんに告白するよ」
「お、マジか!」
「うん。久美さんが俺のことどう思ってるにしても俺は久美さんと付き合いたいって思ってる」
「いいね、綿太郎のそういう素直なところ好きだぜ。男になってこい綿太郎。今日は俺の奢りだ」
「うん、ありがとう!」
景気良く言う小田切に俺も破顔するのが分かる。悪意に巻き込まれることもあるが、俺にはこんな気の良い友達だっている。コイツの期待に応える為にも告白頑張ろうと思った。
「……ところで聞くが綿太郎」
「? なに?」
「久美ちゃんって何カップ?」
「……」
俺は無言で小田切の頭を引っ叩いた。コイツの女好きは相変わらずだ。仮に久美さんと付き合えたにしてもコイツと会わせるのは迷うところだ。
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