セルフケア02

 小山小豆はポケモンのデコキャラシール入れ兼名刺入れ(普通逆……というより名刺とシールを一緒に入れることはない)を拾ってそれを落とし主に届けたら、エラく感謝されてそのままナンパされ、夜の街へと繰り出した。

 どこかネオン色に溢れる街中を歩いていくと目的地らしいそれっぽい建物がチラホラ見えたが、男はそれに目をくれることなくスルー。

 「……」

 ――え、ここじゃないんですか?

 そう口から出かけたが、それを口にしたら自分がそれを期待していることを認めるみたいで癪だ。だがそんな小豆の今更な意地を見透かしたかのように男はフッと微笑む。

 「これからキミには極上の想いをしてもらう」

 「ご、極上……」

 思わずゴクリと生唾を飲み込む。――ってイカンイカン!

 「というか、貴方名前何なんですか!? こんないたいけな美女を連れ立ってナニするつもりなんですか!?」

 「ああ、僕? やあ、これは失礼。僕の名前は影山太郎。かっこいい名前だろう?」

 「影山さんですね。かっこいいかはさておき覚えました」

 「さておくのか。そういうキミは?」

 「私は小山小豆です。小さい山にあんことかの小豆です」

 「ふうん、見た目通りだね」

 影山は小豆の頭からつま先まで見ると、割と失礼な感想を漏らす。

 「というか、私の質問に答えてくださいよ! 影山さんはこんな超美少女を連れてナニするつも――」

 「着いたよ」

 「!」

 小豆が高い自己評価と共に問い詰めると、影山は目的地への到着をアナウンス。

 すると目の前に広がるのはネオン色を発するお城のような建物――ではなく、某ショッピングモール。犬の鳴き声を模した名前のカードを使えるあそこだ。目の前に広がるのは数多くある店舗の中でもかなりデカい。食品に衣類、スポーツ用品から家電に書籍、家具と何でも取り揃えられており、1日2日ではとても回りきれないくらいだ。

 「ここって……イオンですよね?」

 「見ての通りだが?」

 小豆のリアクションに影山は当然だろうという顔。何だかその顔が妙に腹立たしい。

 いや、どう考えてもおかしい。往来でナンパした相手をいきなりショッピングモールに連れてくるか? ……は、待てよ!?

 「さあ、これからここで気持ち良くなるぞー! ……ってアレ!? 小豆君? キミは何でそんな僕と距離を取っているんだい?」

 「……」

 そういえば聞いたことがあるぞ。あからさまにそういう雰囲気のあるところだと入りにくいし、そもそも相手側から拒否されることもあるから入りやすいように外観を変えている場所もあると。――つまり、ここはイオンに見せたホテルだ! 恐ろしく狡猾な罠、私でなければ見逃しちゃうね。

 「すっかり遅くなっちゃったね」「ママ、早く帰ってご飯食べようよぉ」

 小豆が自らの推理力(笑)に浸っていると親と子がそれぞれ買い物袋を持った仲良さげな親子が出てくる。

 「……」

 どうやらガチのマジでイオンっぽい。そう認識した瞬間、小豆は自らの頬が赤く染まるのを感じた。

 「い、イオンですよねここ!? うん、ええ、わかっていましたとも! 」

 「あ、ああ……そ、それは良かった……?」

 突如逆ギレし始める小豆に影山は大量の疑問符を浮かべながらも大人の対応。小豆は勝手にアレコレ妄想していたことが恥ずかしくてしょうがない。

 「――で? イオンで何をしようってんですか? 私を満足させることができるんでしょうね!?」

 小豆はそんな影山の態度をいいことに尻捲る。影山は押しが強い分、押されることに弱いらしい。冷や汗をかきっぱなしだ。しかし、突然不敵な笑みを浮かべる。

 「ふん、当然さ。まるで自分がこの世で1番不幸だと言わんばかりに辛気臭い表情をしているキミを見た瞬間思ったよ。キミにはこれしかないってね」

 「……」

 やっぱりこの人めちゃ失礼な奴だ。しかし、ここまで自信満々に語るのも気になる。

 「さあ、行こうパラダイスはすぐそこだ」

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