第3話

「朔~、飯食おうぜ」

「うん」

昼休みになって、いつものように仲の良い友達が声を掛けてくる。

友達の名前は、榎本直哉えのもとなおや佐竹博己さたけひろき

二人とは、高校に入ってから知り合った。

出席番号順に指定された座席で、直哉は俺の前、博己は俺の右隣だった。席が近い男子同士、話す機会が多かったこともあって、気がついたら一緒に過ごすようになってた。

出会ってまだ数ヶ月なのに、二人といるのはとても居心地が良い。


「小埜先輩も忘れ物とかするんだ」

「うん、珍しいけど」

直哉はバレー部だ。部活での泰良も、やっぱり何事もそつがないらしくて「弁当を忘れた」という話には直哉がすごく意外そうにしている。

「でさ、その時、俺『あくつ』っていう先輩とぶつかっちゃって」

博己が

「阿久津って…祐介先輩?」

と、聞き返してくる。そう言えば泰良が「ゆうすけ」と呼んでいた。

「うん、その人。知ってる?」

「その人、うちのキャプテン」

直哉が言った。博己は、

「僕、中学同じだった。て言うか、祐介先輩も、校内、校外問わず有名人だよ?小埜先輩と同じくらい」

と教えてくれた。

直哉は二個目のコロッケパンを開けながら、

「おう、『D高バレー部の両翼』だぜ」

と、なぜかドヤ顔をする。

「誰が言ってんの、それ…」

その呼び名は、微妙にダサいと思う。

「朔、顔~」

博己が俺を指差して、苦笑いした。

「あ、今月の学校新聞、その『両翼』がメインだよ。今日から貼り出してる」

博己は新聞部。まだ記事は書いていないが「取材」には連れ出されるらしく、そのせいかこう見えてそこそこ情報通だったりする。

「ツーショット写真撮ったんだ」

俺は二人が並んでいるところを思い浮かべた。

(イケメンの大男が二人…)

「絵面強い…。阿久津先輩もすごくおっきいよね?」

と言うと、

「うん、まあ、みんな、朔に比べれば…」

「うん。朔のサイズ、すごく可愛い」

と、直哉と博己が頭を撫でてくる。

直哉は百八十センチ近いし、博己ももうすぐ百七十センチに届くところらしい。百五十八センチの俺からしたら、確かに二人とも大きいんだけど…。

「なんだよ二人して、ちょっと俺より大きいからって…」

「『ちょっと』じゃないけどな」

「ああ、このままでいてほしい…」

二人の「よしよし」は、いつもの光景だ。そして、それを見て周囲の女子がなんだか喜んでいる。

「そっか。同じ部活だから、あの人兄さんと親し気だったんだな」

俺が言うと、二人が動きを止めた。

「親し気?」

「親しくはないんじゃないかなぁ…?」

直哉も博己も、半笑いだ。

「え?どゆこと?」

(親しくはない?)

不思議に思って聞き返すと、

「…キャプテンが一方的に小埜先輩をライバル視している、というか…」

「因縁の相手ではあるんだよねぇ」

「?」

直哉と博己によると、阿久津先輩と泰良は共に中学の頃から注目されていた。

「新人戦はうちが勝ったけど、中総体は負けちゃったんだよ」

博己の話では、優勝を期待されていただけに、バレー部、特に阿久津先輩の落ち込み様はひどかったという。

「あ~、それは…」

(悔しかっただろうなぁ…)

ポジションは違うけど、何かと比較される二人で、それは、同じ高校でチームメイトとして活動する今になっても変わらないらしい。

(比べられるのは…うん、そりゃ…)

俺が阿久津先輩の心情を慮っていると、直哉が

「切っ掛けはそうかもしんないけど」

少し呆れたような声で、

「単純に、小埜先輩がモテるのが気に入らないんじゃないか?」

「は?」

俺は心底間抜けな声が出た。

「その上、小埜先輩、告白されても断っちゃうから、阿久津先輩が、逆恨みしている、みたいな」

と、二人は笑っていた。

俺は、今朝の先輩の姿を思い出し、

「阿久津先輩も、モテそうだけど。顔良いし」

呟くと、直哉が、

「…まあ、慕われてる」

博己も

「うん、中学の時から親しみやすくはあるかなぁ。インタビューも、いろいろ答えてくれたし…」

と言った。

(…モテないのか?)

「いい人そうだけどな。俺とぶつかったときも倒れないように抱き締めてくれたし、落ちそうになったメガネも受け止めてくれたし。手、塞がってたから、メガネこうやって掛け直してくれて」

朝のことを思い出しながら話していると、二人は一瞬ポカンとして、

「抱き締めて?」

「メガネ掛け直して?」

「うん……?」

二人は、

「いや、漫画か!」

「え~、どうしよう!萌える~!」

と、大笑いしていた。

「え、そんなに笑うとこ?」

「朔~!」

俺だけ一人、訳が分からないまま、苦笑いをうかべるしかなかった。




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