第5話 目に入れても痛くない


それから数年が経った。

そろそろ冬が終わる頃。店も順調。來夢とも順調。


でもその中で來夢の聴力は月を追うごとに落ちていった。今はほぼ聞こえていない。


でも僕ら店の中は何も変わらない。

メモを使って話したり、手話で少しづつ話してくれる人もいたり、やはり彼女の人間的な可愛さで皆が守ってくれていた。



僕も僕でめげずに來夢の実家に通って卒業後の結婚までこぎ着けた。


お母さん曰く、僕が聴力が落ちていく來夢に対して何も変わらず必要な時に必要な手助けをしてる姿や手話で人と繋いでる姿を見たり、心から僕が彼女を愛してる姿を見て折れたらしい。



お父さんは相変わらず。でも少しづつ僕と話をしてくれるようになった。

そしてつい先日、僕が一人で彼女の実家へ行った帰りに玄関で父親に呼び止められた。


「稜太」

「はい。」

「…悪い。」

「殴るなら言ってくださいね。心の準備あるので」


僕が笑って言うと、


「違う。…その、手話を教えてくれないか。」

「いいですよ!きっと來夢も喜びます。沢山話しかけてあげてください!」


翌日から來夢に内緒の特訓が始まった。

元々お義父さんはギリギリまで声で話したくて、聞こえるなら声でと思っていて手話を覚えなかった。でも階段をかけ下りるように聴力が落ちていく來夢を見て、どう声をかけてあげていいか分からなくなってずっと悩んでいた。


僕とお義父さんは毎晩、LINE電話で手話の話をした。


そして、一週間後の仕事終わり來夢の実家へ寄るとリビングでお義父さんが來夢に声をかけた。


來夢と目を合わせて、


『お疲れ様。いじめられたらパパに言いなさい。この男をぶん殴ってやるから』とゆっくり手話で話した。


すると來夢は声を出して笑った。


お義父さんは続けて話した。


「パパは、來夢を愛している。聞こえていようといまいが関係ない。」


そして來夢を優しく包み込んだ。


横を見るとお義母さんは目を赤くしていた。



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