XLVI 三か月間の船旅

 阪神大正輸送機工業にギャリソン&ガリクソン社から、ガラティアの試作品の第二弾が到着した。

 一般には知らされていなかったが実は、ガラティアはオプションパーツを組み込むことで、レールガンとなるように設計されていた。

 レールガンとは電磁波によって弾丸が発射される機関銃のようなもので、機関銃の弾丸の速度がマッハ2程度なのに対し、レールガンはマッハ20くらいの速度で飛ぶ。しかも弾丸が小さくても射程距離が長いので、もし散弾を装填すれば、相手が撃った銃弾に散弾の雨を降らせることになり、弾丸は途中で堕ちてしまう。


 このようなシステムは世界に類がなく、各国の諜報員は必死になって、情報集めに奔走していた。

 ギャリソン&ガリクソン社と阪神大正輸送機工業は、テスピナのとき以上の厳戒態勢を敷くこととなった。


 ☆☆☆


 タカラトーイ産業の狩野と一緒に、黄来有限公司の陳清波と会うことになった原島は、「狩野、俺をお前と同じ会社の技術者としてヤツに、紹介してくれないか」とお願いした。

「いいけどよ、どうしてだ」


「地雷に興味があるヤツに、女が着る洋服屋の名刺を出したら、ヤツはなんて思うか考えてみろ、きっとバカにされたと思って、本当のことは言わないんじゃないか」

「それもそうだな、じゃあ何を研究してるといえばいいかな」


「そうだな、どうせなら思いっきりハッタリをかませて、爪の先くらいの超小型レーザー銃で、人口衛星を撃ち落とす新型兵器を研究してる、ってのはどうかな」

「そうだな、それじゃあ それらしい部の名前にしないとならないな」


「それじゃあ。タカラトーイ産業株式会社 特殊兵器研究部 レーザー銃開発課 人口衛星撃墜班 班長 原島省三、ってのはどうかな」


「よし気にいった。それでいこう」

 保科研究社のビルはパレスホテルから100メートルくらいの距離である。

 専務の秘書の中川美里に「これこれの名刺を作って下さい」と言うと、

 美里はものの五分も経たないうちに、本物みたいな偽物の名刺を持って来た。


 ☆☆☆


 原島と狩野がパレスホテルで待ってると「どうも、どうも、遅れちゃってすみません。道が混んじゃって」と言って、汗を拭きながら黄来有限公司の陳清波がやってきた。

「技術部長さんは一緒じゃなかったのですか」と狩野が聞くと「部長の王 弦明は急な用でニューヨークに行くことになりました、本当にすみません」と謝って「そちら様は?」と聞いたので、まだインクの臭いがする名刺を出して「人口衛星を撃ち落とすレーザー銃を研究している原島と申します」と言うと陳 清波は「本当ですか?」と疑うような目で原島を見た。


 すかさず「来月実験をするので、どこの国の衛星を墜とすか考えてたのですが、アメリカの気象衛星を撃ち落とすことに決めました」というと「アメリカですか、いいですね。実はですね、うちもアメリカをやっつけるレールガンを研究してるのですが、行きずまってしまい、いろいろと考えていた時、ある会社の技術者の人が、レールガンにもなるシステムを持って、関西国際空港に到着しました。それでその人に「レールガンについて教えてください」というとその人は「私はただの連絡係です」と言ったので、優秀な人ほど謙虚だな、と思いました。そこで部長の王 弦明に相談すると『そいつを金と女で口説き落として船に乗せろ』と言われました」


「どうして船に乗せるのですか」

「それはですね、レールガンに散弾を充填して撃つと、広い範囲に広がるので、洋上でないと実験ができないのです」

「そうですか、それでその人は船に乗ったのですか」

「それがですね金にも女にも興味がないみたいで『俺は技術者じゃない』と言い続けましたので、ますます本物だと思いました。そこでちょっとだけ荒っぽい方法で船に乗せました。

 そしてレールガンの講義をしてもらったのですが、その人の講義が英語と日本語のチャンポンで、英語に堪能なうちの研究員にも難しすぎて、さっぱり分かりませんでした。そして航海を続けるうちに船はスエズ運河を渡って地中海に出ました。そのころになって、この人は優秀な技術者ではなく、ただの連絡員だと気が付きました」


「地中海まで行ってしまったのですか。気が長いですね」

「はい、なにしろ中国は四千年の歴史がありますから、人民はみんなのんびり生きています」

「そうですかねぇ、ちょっと違うような気もしますが、それでその人どうなったのですか」

 地中海まで来たらもう引き返えせません。それで大西洋を渡り、ニューヨークに着いたらその人を引きずりだして、痛い目に合わそうということになって今日、王部長がニューヨークに向かったのです」


「そうですかあなたも王部長も大変な迷惑をうけたんですね。同情いたします。

ところで、その人の名前はなんていうのですか」

「はい、スコット・シンプソンと言います。原島さんも狩野さんもスコットには気を付けて下さい」


「ご忠告ありがとうございます」


 と言うことで、スコットは三か月間船に乗って、無能ぶりを遺憾なく発揮していたのであった。

 翌日スコットは自由の女神に見守られてニューヨークに入港し、ジョージィとリトルジョージィが待つ我が家に帰ることとなった。


 王 弦明は待ち構えていたFBIに営利誘拐罪で逮捕され、ライカーズ刑務所に入るのは確実となった。

陳清波と、中国の技術者たちは多分、習近平国家主席の叱責を受け、黒竜江省に送られて強制労働をさせられるのだろう。


 狩野には原島からhoshinaの洋服が贈られて、狩野の彼女が着ることとなった。


 名刺を作ってくれたには千里には根室食堂でご馳走して済まそうと思ったが、ある考えを思いつき、 銀座の高級フランス料理店「ロオジエ」を予約した。









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