XLIII ジョンFケネディ空港

 ギャリソン&ガリクソン社はテスピナの開発に一段落ついて、かねてから計画して

 いた地雷除去装置の研究に着手した。


 地雷には対戦車地雷と対人地雷があって、特に対人地雷はその残虐性から悪魔の兵器と呼ばれ、1999年にオタワ条約によって、製造と使用は禁止された。

 だがロシアと中国は条約に反対票を投じた。アメリカは条約に賛成はしたが批准していなかった。

 だがアメリカ製の対人地雷は敷設後、一定の時間が経過すると自爆するようになっていて、後々まで危険が残ることはない。


 しかし、過去に敷設された地雷は世界中にあって、その数は1億個以上あるとされていて、完全に除去するには100年以上かかると言われている。ウクライナでは現在もロシア軍の地雷によって、多くのウクライナ兵が死傷していて、地雷の除去は早急の課題であった。


 地雷の除去には、手作業で金属探知器を操作して、発見したら爆薬を仕掛けて爆発させる方法が一般的であったが、ギャリソン&ガリクソン社の方式は、地雷原に中性子を照射すると、爆薬の主要構成元素である窒素原子の核反応でガンマ線が放出される。それを検出することによって地雷を感知して、発見した後はリモートコントロールで爆破する方式であった。


 この方式なら操作する人は地雷に触れることもなく、安全な方式であった

 ただ中性子を地雷原に照射するには、地上1メートルくらいの高さから下向きに照射することが必要で、そのような作業に最も適しているのがドローンであった。


 しかし、ギャリソン&ガリクソン社はドローンを製造した経験がなく、早急な完成の必要性からギャリソン&ガリクソン社は中性子照射装置を開発し、ドローンの本体とコントロール部分は飛行機の技術を持つ企業と提携することとした。


 そして白羽の矢が立ったのが、大型機の翼の製造に高い技術を持つ、阪神大正輸送機工業であった。

 ギャリソン&ガリクソン社と、阪神大正輸送機工業は協議の結果、この提携話は合意に達し、翌日、日米で同時に発表された。


 この発表があった時、原島は阪神大正輸送機工業との提携を前提に、敵を攻撃するドローンの供給を受け、戦争当事国に売るつもりであったが、阪神大正輸送機工業はギャリソン&ガリクソン社と提携してしまった。もう、保科研究社が出る幕はない。


 仮に阪神大正輸送機工業が保科研究社とも提携してくれたとしても、ギャリソン&ガリクソン社は地雷を撤去する人道的なドローンで、逆に保科研究社のドローンは、人を殺す兵器である。多分世論は保科研究社に味方はしないだろう。


「ちくしょう!先を越されてしまったか。ギャリソン&ガリクソンのクソ野郎め!」

と、原島は拳を握りしめて、書き上げた提案書を破り捨てた。


 ☆☆☆


 ギャリソン&ガリクソン社は日本語が堪能なスコットを、阪神大正輸送機工業との連絡係に任命した。スコットとしても、テスピナの実験から外された時の悔しさを晴らすチャンスである。


 連絡員と言えども、新システムの開発に携わる一員であることに変わりはない。

 スコットは任命書をガッツポーズで受け取った。


 そして一か月後、スコットは中性子照射装置の試作機を携えて、日本へ向かうこととなった。出発の日スコットは、ジョージィと、三歳になったリトルジョージィに見送られ、ジョンFケネディ空港を飛び立った。



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