XXXVIII 情報の共有化
スコットが中東に派遣された翌週、バージニア州フォールズチャーチのゼネラルダイナミックス社本社ビルに、無人のトラックが突っ込む事件が発生した。
トラックには100キロ以上の爆弾が積まれていて、別棟の守衛室が爆発し、守衛が二名死亡して、5名が負傷した。
もしこれが本棟の本社ビルで爆発していたら、千人以上いるゼネラルダイナミックス社本社ビルは、大惨事になるところであった。
翌日にはノースロップグラマン社のニューポートニューズ造船所の食堂で、アラブ系の男が腹に巻いたダイナマイトを爆発させる自爆テロが発生し、居合わせた三人が死亡して5人が重傷を負った。
翌日、中東の武装集団ヒズボーラがツイッターで、二つの事件の犯行声明を発表した。
ゼネラルダイナミックス社は戦闘機やミサイルなどの兵器メーカーで、ハッサム皇太子のあの国にもFー16戦闘機などを輸出していた。
ノースロップグラマン社のニューポートニューズ造船所は原子力空母と、原子力潜水艦を建造する工場で、建造された航空母艦から発進した早期警戒機は、ヒズラーボの拠点を警戒飛行していた。ヒズラーボから見れば両社とも、憎い敵であった。
ロッキードマーチン社、レイセオン社、ギャリソン&ガリクソン社など、今回は被害に合わなかった他の兵器メーカーも、厳戒態勢を敷くこととなった。
中東のあの国には、阪神大正輸送機工業も装甲車を輸出していて、ゼネラルダイナミックス社と同様に、テロの対象となる可能性が高まった。
アメリカ政府は防衛産業各社に、CIAが収集したヒズラーボの資料を提供することにした。
通常、CIAが収集した資料は大統領と、大統領補佐官だけが見るもので、防衛産業と言えども、民間企業に提供されることは過去に例がない。
しかし、今回の事件は国家を揺るがす大事件である。
アメリカ政府はアメリカだけでなく、日本政府と阪神大正輸送機工業にも情報を提供することにした。
阪神大正輸送機工業はかって生駒工場で、福島、逢坂、泉、という三人の社員が金に目が眩み、装甲車の重要な部品を中国に流出させる事件を起こしていた。
それでアメリカ政府は日本の情報管理に疑問を抱き、重要な情報は時として、日本には知らせないことがあった。
しかし今回は二つの事件の重大さから、阪神大正輸送機工業にもCIAの情報を提供することにした。
結果、ギャリソン&ガリクソン社と、阪神大正輸送機工業は、テロ対策という型で、情報を共有することとなった。
◇◇◇
「班長、ヒズラーボのミサイルが飛んで来ませんね」
「スコット、お前はミサイルが飛んで来てほしいのか」
「当然じゃないですか、飛んで来なかかったらこのシステムの試験になりませんからね」
「だけどよ、もしこいつが働かなかったら、お前は死んでしまうんだぞ。それでもいいのか」
「死にたくはないですよ。半年後には小どもが生まれますからね」
と、スコットとCIAの工作員が話してるとき「キューキュー」と、レーダーの音がして、モニターに白い点が映し出された。
「ヤバイ、ミサイルだ、穴に潜れ!」と、班長が言ったときには「キューン」と何かが頭の上をかすめて飛んで行った。
すると、10キロメートルくらい後方から白い煙が湧来上がるのが見えた。
その後やや間を置いて「ドッカーン」と大音響が響いてきた。
スコットの頭をかすめて行ったのは、ヒズボーラが撃ったミサイルで、地上から50メートルくらいの低空をマッハ5以上のスピードで飛ぶ、極超音速巡行ミサイルであった。
ギャリソン&ガリクソン社の極超音速巡行ミサイル迎撃システムは、レーダーが反応した時にはもう爆発が起きていて、飛んできた弾頭を撃ち落とすことは出来なかった。
幸いにも爆発したのが10キロくらい離れた砂漠だったので、スコットは死なずに済んだが、極超音速巡行ミサイル迎撃システムは働かず、失敗作であることが証明された。
ロシアの側も目標地から10キロも離れた砂漠を爆発させただけで、極超音速巡行ミサイルとしては失敗であった。
こうしてロシアの極超音速巡行ミサイルと、ギャリクソン&ガリクソン社の迎撃システムはともに失敗に終った。
スコットは失敗に終わったシステムを輸送機に積み込んだ後、民間人に戻って帰国することになった。
ベセスダの本社で報告書を書き上げて、ニューヨークの自宅に戻った一か月後、ジョージィとスコットに赤ちゃんが誕生した。
生まれたのは女の子で、ジョージィの祖先から伝わる名前、「ジョージィ」と名付けられた。
こうして母はジョージィ、生まれた子は母のジョージィが生存する限り「リトルジョージィ」と呼ばれることとなった。
ある日、休暇を取って自宅にいたスコットをアジア系の男が訪ねて来て「阪神大正輸送機工業の黒木と言います。スコットさんが中東で経験したことを聞かせて下さい」と言った。
念のため、ベセスダの本社に問い合わせてみると、総務担当CFOのジョーンズは「阪神大正輸送機工業とは情報の共有を認められているので、会ってもいいです」と返事があった。
スコットは黒木を招き入れ、聞かれるままに経験した全てを話した。
黒木は「ありがとうございます。これで我が社も安全が確保できそうです」と言って帰って行った。
それから半年後、中国は「新疆ウイグル地区のタカラマカン砂漠で、極超音速巡行ミサイルと、その迎撃システムの両方の実験に成功した」と発表した。
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