XXI プレゼントの中味
スミスを誘惑した女はあるホテルに入った。部屋に入ると女は「私はクリスティーヌといいます。今日はゆっくりしていって下さい。食事を用意させますね」と言って電話を掛けると、豪華な料理が運ばれて来た。
その後スミスは、過去に経験したことがない官能的な夜を過ごした。
翌朝クリスティヌはベッドの中で「また会ってもらえますか?」と言った。
「もちろんです」とスミスが言うと「では待っています」と言って、また官能的な時を過ごした。
三日後、スミスはクリスティヌにプレゼントを渡した。クリスティヌはプレゼントを開き確認すると「今日はもっといい所へ行きましょ」と言い、ホテルの前でクリスティヌが手を上げると黒塗りの車が来て、中国人の運転手が降りてきて、ドアーを開いた。
スミスとクリスティヌを乗せた車はウィスコンシンアベニューを南下して、ワシントンDC中心街のランジェリーショップの前に止った。
運転してきた中国人がランジェリーがぶら下がった壁を押すと、回転ドアーになっていて、奥は事務所のような作りになっていた。
スミスを残して男が出ていくと、入れ替わるように中年の白人の女が入ってきた。
女はスミスがクリスティヌに渡したプレゼントを手に持っていて「見せてもらいましたがこれは一部ですね」と言った。
「はい、研究は始まったばかりなので、次の資料をお渡しできるのは多分、一か月くらい先になると思います」
スミスがそう言うと女は「マイケルさんにずいぶんお世話になりました。これからはあなたと付き合わせてもらいます。よろしくお願いします」と言って、小切手を
スミスの手に握らせた。
見ると小切手の金額は、スミスの10年分の給料に相当する額であった。
そして振出人の名前は「ジョン・リー・ウイリアム」となっていた。
ジョン・リー・ウイリアムの本名は「李嗎宇」といい、売春宿の経営で巨万の富を築き、中国人留学生を支援している男である。
スミスが渡したプレゼントの中味は5年くらい前、ギャリソン&ガリクソン社が国防総省に提案したが「実現は不可能」とされ、開発を断念した人口衛星撃墜ミサイルの計画書の一部であった。
たかが中国人留学生ごときがそれを見たところで、人口衛星の撃墜どころか、カラスを墜とすこともできない代物しか作れないのは明らかであった。
だがスミスは「こちらこそよろしくお願いいたします」と言い、小切手を受け取った。
部屋を出るとクリスティヌは女性客のバストにメジャーをあて、ブラジャーの寸法を測っていた。
どうやらこのランジェリーショップは、李嗎宇が中国人留学生のスパイ活動を支援するのを隠す、カモフラージュショップらしい。
ワシントンDCの中心部にあり、国務長官でも入りにくいランジェリーを隠れ家にしてたのはさすがに優秀な中国人留学生だとは思うが、CIA 諜報員の敵ではなかった。
スミスが受け取った小切手は国庫に納められ、中国との貿易赤字をほんの少しだけ解消するのに役立った。
これでギャリソン&ガリクソン社の情報が漏洩していたのは、元研究員で一年前に定年退職したマイケルという男が漏らしていたことを突き止めた。
マイケルはスパイ容疑で逮捕され有罪となり、ライカーズ刑務所に収監された。
ライカーズ刑務所は李嗎宇が50年間暮らした所で、二人はめでたく50年の時差のある獄友となった。
だがこの件は公表はせず、スミスはその後もクリスティヌとデートを重ね、官能的な夜を過ごし、でたらめの情報をプレゼントし続けた。
そしてその都度受け取った小切手は毎回国庫に納められ、一部は中国との貿易赤字解消に役立ったが、ほんの一部だけ、本当にほんの一部だけはCIA職員の遊興費に充てられた。
しかしスミスだけはクリスティヌと良いおもいをしたので、対象外とされた。
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