XX 新事実
川崎で起きた爆発事件は新たな事態をもたらした。FBIが事件の捜査を行う機関であるのに対し、CIAは事件を起こす機関である。CIAは他国の内部に忍び込み、諜報活動をする機関である。そこには必然的に事件が発生する。首脳を殺害し、国家を転覆を計ることさえ厭わない。
川崎で起きた爆発事件はCIA から見れば、取るに足らない些細な出来事である。
しかし日本にとっては、友好国であるアメリカからの絶縁状に等しい出来事であった。
成り行き次第によっては、アメリカ政府はCIA の日本における活動に対し、何等かの制限を設ける可能性が生じることとなった。
そこでCIAは、それまでは司法長官にさえ、明かしたことがなかったCIA職員の情報を、長官の許可を得た者に限り、閲覧可能とすることで幕引きを計ることにした。
先ず、通称ミチコと呼ばれている諜報員にスポットを当ててみると、次のように記されていた。
ミチコの本名は、ミチコ・シンプソン。
父はイングランド系の白人で、名はトーマス・シンプソン。
母は沖縄県出身の日本人で、名はサチヨ・シンプソン(旧姓 具志堅サチヨ)
ミチコは八年前にコロンビア大学を卒業後、バージニア州、ラングレーのCntrai Intelligance Agency (CIA)に入局した。
父のトーマスはかって、キャンプ知念で活動したCIAの諜報員で、日本の共産主義者の調査を担当していた。
その後トーマスは帰国して、アメリカの企業と、共産主義国の企業との取引を調査していた。
そして妻のサチヨと、娘のミチコを沖縄に残したまま、ボストンに行き、スージーという女性と結婚し、スコットという名の子どもを作っていた。
◇◇◇
川崎の爆発事件は結果として、スコットとミチコが異母姉弟であることを明らかにした。もっともミチコはこの事実を母から知らされていて、ボストンでスコットが誕生した時、九歳だったミチコは、自分と母が沖縄にいるのに「どうしてアメリカに弟が生まれたの」と、母を問い詰めた。
その後母の胸中を理解できる歳になったころには、父の不誠実さに怒りを覚えた。
だが気が付いてみれば、自分も父と同じ道にいた。ミチコは人を欺き家庭の崩壊さえも厭わないCIAという組織を憎み、自分を責めた。
せめて沖縄に残して来た母が自身を責めないで、平安に暮らしてくれることを願った。だがその母も1年前に亡くなった。
きっと父も今の自分のように、人を欺くことに悩みながら生きていたのだろう。
と思いつつも、日夜厳しい訓練と勉強に励んだ。
そのときの教官がジム・ホワイトという人であった。
ジム・ホワイトは沖縄のキャンプ知念にいた時は、父トーマスの上司であった。
その後、ジム・ホワイトはCIAの籍を外されて、ベセスダのギャリクソン&ガリクソンという軍需会社にCFOという形で入社した。CFOとは一般的には財務担当役員を指すことが多いが、ジム・ホワイトは社内にいる社会主義活動家の摘発が任務であった。
当時ギャリソン&ガリクソン社は、機密情報の漏洩が度々あり、国防総省にとって武器の調達先である会社の問題は、国の問題でもあった。そこで抜擢されたのがジム・ホワイトであった。
ジム・ホワイトは社内に潜む共産主義者を焙り出すため、CIAの諜報員なら常套手段のある方法を採った。
ジム・ホワイトは先ず、自分自身は名前も顔も一切明かさずに、ギャリソン&ガリクソン社の社員向けに、元、ある会社で「首切りアドルフ」と呼ばれ、会社に批判的な社員を全員首にしたという伝説の持ち主の「アドルフ・シュタイナー」
という人物の名を借りて、ギャリソン&ガリクソン社の社内報に、「アドルフ・シュタイナー氏を人事担当CFOとして迎えることになりました」と発表した。
アドルフ・シュタイナーには常に一緒に行動するヴォルター・ハルシュタインという秘書がいて、この人もギャリソン&ガリクソン社に来ます。と書かれていた。
この社内報を社員はどんな気持ちで見ただろう。背中に冷やりとするものを感じた人もいたに違いない。
だが中には内心(来るなら来てみろ、俺たちの組織でそんなヤツはぶっ殺してやる)と思った社員のグループがあった。
このグループが次にどう行動するか、それを見るのがジム・ホワイトのCIA的作戦であった。
そしてベセスダ市郊外に家を借りて、アドルフ・シュタイナーが住んでいるように見せかけた。
次にジム・ホワイトは「ギャリソン&ガリクソン社は画期的な兵器の開発を国防総省と契約しました。この兵器開発のため特別チームを編成しました」と、マスコミを通じて大々的に発表した。
そして、本社内にいかにも秘密兵器開発チームっぽい厳重なセキュリティを施した部屋を作り、CIAの諜報員を10人くらい配置した。
ある日、そのCIA諜報員に「すみません、ギャリソン&ガリクソンのスミスさんですか」と、色っぽい女が街角で声をかけて来た。
「ええ、そうです。スミスです」と答えると女はスミスの耳元でそっと「お茶に付き合ってくれませんか、私は今日は一人なんです」と言った。
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