XVIII ライカーズ刑務所の獄友たち
殿田希恵から通報を受けたニューヨーク市警察は、希恵が掛けた電話番号の川崎市の所轄署に、何らかの事態が発生する可能性があることを通知した。
その30分前に川崎市の伊地知宅ですでに、電話機に仕掛けた装置による爆発事件が起きていた。川崎市の爆発事故はFBIハドソン支部とされる部屋の電話機から掛けられたことは確実であった。
しかし、FBIにハドソン支部というものは存在しない。したがってこの事件はFBIの名を語った偽者の犯行と断定された。
希恵はニューヨーク市警に「私は三日前からここに勤めていました。そしたら昨日、スコット・シンプソンという人が来て、『ここに電話を掛けて下さい』と言いました」と供述した。
ニューヨーク市警はニューヨークに住むスコット・シンプソンという名を洗いだした。その結果、スコット・シンプソンという名の人物は20人存在した。
そのうち16人には、フランクリン、フイッツジェラルド、などの、ミドルネームが付いていた。
残る4人のうち、一人は長期療養中の老人で除外された。
もう一人は満二才の幼児であった。
もう一人は、ニューヨーク市のライカーズ刑務所に服役中であった。
最後に残ったのが、問題のスコット・シンプソンであった。
ニューヨーク市警はスコットに任意出頭を求め、事情聴取を行った。スコットは「一昨日 FBIの人が三人きて、FBIハドソン支部に連れていかれで、いろいろ聞かれました。
昨日もまたトニーというFBIの 人が来て、COCOSの駐車場に止めた車の中で、バーガージョイントのハンバーガーとペプシコーラを食べました。そのときトニーに、
『昨日もFBIの人が来て、FBIハドソン支部に連れていかれました、と話したらトニーは『分かった今日はこれで終わりだ。明日も迎えに行くから待ってろよ』と言い、寮まで送ってくれました」と供述した。
取り調べ室のマジックミラーを通して希恵に確認させたところ希恵は「私に電話を掛けさせたスコット・シンプソンはこの人ではありません。
50才くらいの白人でした」と証言した。
他に手掛かりはなく、ニューヨーク市警の捜査は暗礁に乗りあげた。
そんなニューヨーク市警をよそに、FBIの捜査は着々と進んでいた。
ベセスダで起きた二件の爆発事件と、ハドソン支部と名乗る偽FBI 事務所が摘発された翌日にまたもやトニーと名乗る偽FBI捜査官が現れたことで、事件はメリーランド州警察とニューヨーク州警察を離れ、FBIが捜査をすることとなった。
そもそもFBIは、アメリカの州を跨いだ事件の捜査が任務である。
なので、メリーランど州とニューヨークにまたがり、尚且つ偽FBI 事件となれば、FBIが出動するのは当然であった。
FBI は爆発事故のあった空き家の所有者の「ジョン・リー・ウイリアム」という人物の調査を行っていた。
調査の結果分かったのは、ジョン・リー・ウイリアムの本名は「李嗎宇」という中国人で、李嗎宇は強盗殺人罪で無期懲役の刑を受け、ライカーズ刑務所に50年間服役して5年前に出所していた。
務所生活50年ともなれば、自然とそれ相応の風格が身について、並みのマフィアの親分など、足元にも及ばない立派な獄王となった。
獄王様には当然のごとく、慕う獄仲間が生まれ、ライカーズ刑務所のほぼ全員が、李の獄友となった。
この世界では悪の道を極めるまで悪行に勤しむのが徳とされ、獄友たちは。娑婆に戻っても獄王様を崇め、献上の心を忘れなかった。
李はその金を基に、売春宿チェーンを作りあげ、わずか5年で巨万の富を手にするまでになっていた。李はその金を留学生と称して実は、スパイ活動をする学生たちの支援に使っていた。
中国人留学生たちは、マサチューセッツ工科大学、スタンフォード大学、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校など、全米の大学や研究機関に散らばって、盗んだ情報は中国の発展の基となった。
やがて、西側諸国を中心に、中国脅威論が生まれることとなった。
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