XVII 二つのFBI事務所と三つの爆発事故

 スコットがFBIの車に乗せられて寮に戻った翌日、またFBIの捜査官がやってきた。

 今日は昨日と違い、FBIのバッジを見せて「FBIのトニーです。少し話を聞かせて下さい」と、丁寧な話し方をする男であった。


 トニーは「俺のお袋は俳優のトニー・カーチスのフアンだったので、親父に相談もせずに、生まれた赤ん坊の俺にトニーという名前を付けて、後から親父のお袋から『うちは生粋のイングランド系だよ、なんでイタリア系のトニーなんて付けたのよ』と、こっぴどく叱られた』と、名前に纏わるエピソードを話してくれた。


 トニーの車に乗ってCOCOSというファミレスで降りると「ここで食う訳じゃないぞ、ちょっと駐車場を借りるだけだ」と言って、どこかへ行ってしまった。

 30分くらい待つとトニーは、大きな紙袋を持って帰って来た。


 そして「おいこれを食え」と言って、「バーガージョイント」というチエーン店のハンバーガーと、ペプシコーラを出して「ペプシコーラにはペプシンという胃腸に効く成分が入っているからペプシコーラという名前になった。だから俺はコーラはペプシと決めている。お前はコカ・コーラ派か?」と聞いたので「僕もペプシ派です」と言うと「ペプシ好きに悪いヤツはいない、お前はきっと犯人じゃない」と言った。


 何の犯人か分からないけど、ハンバーガーとコーラで満腹になってから「お前が住んでいたベセスダの家は爆発して木端微塵になった。知ってるか?」と聞かれた。

「いいえ知りません」と言うと「お前がニューヨーク行きのバスに乗った日の夜、あの家は電話に仕掛けた爆弾で爆破された。あの電話の音を聞かせてやる」とトニーはテープレコーダーを回した。


 すると「ジジィジジィ」と、ベセスダの家にあった電話と同じ、機械式ブザーの音が聞こえて来た。

 トニーは「この音が30秒以上鳴っても受話器を取らないと、自動的に爆発するように細工がされていた。お前は電話が掛かってきた時、すぐにとったから助かったんだぞ。人を待たすのは良くないことだ」と言ったので、子どものころ父親のトーマスから同じようなことを言われたことを思い出して、

「昨日のFBIの人はすごく怖い人でしたよ。トニーさんとは全然違いました」と言うと、トニーは「昨日も来た? お前は車に乗せられたか?」


「はい車でどこかのビルの20階に行きました」

「場所は分るか?」


「場所は分かりませんが、ドアーにBRSSと書いてありました。そして偉そうな捜査官がいて『ここはFBIハドソン支部だ』と言ってました。

「FBIハドソン支部? …………」と考えるような様子を見せた後「ベセスダの家に引っ越し屋は来なかったか?」と聞いたので「Allied van Lins のトラックが来てテレビと冷蔵庫を積んで行きました」


「よし分かった。今日はこれで終わりだ。明日また迎えに来るから待ってろよ」と言って、寮まで送ってくれた」


 翌日の午後、ハドソン川近くのあるビルのBRSSと書かれた部屋に、一人の男が尋ねて来た。出てきたのは殿田希恵という日本人の女性であった。男は部屋に入ると「私はスコット・シンプソンと言います。10年前までこの事務所で働いてたんですよ。懐かしいなぁ」と部屋を見まわして

「ああこれも未だ使ってるんだ」と言って古めかしい冷蔵庫に近づいて眺めていた。


その後、「ここでお世話になったジムさんと、お話をしたくなりました。私は手が悪いので、すみませんがここに電話を掛けてくれませんか」と、悪いはずの手で手帳を出し、電話番号の書かれたページを開いた。


希恵は「はい分かりました」と言い、011 81 44 ○○○○とボタンを押すと「ジジィジジィ」とブザーの音が聞こえてきた。

 それから約30秒後、受話器から「ドッカーン」と凄まじい爆発音が聞こえてきた。希恵は「何の音!」と驚いて受話器を放り投げた。男は希恵を残して部屋を出ると、待たせてあった車で逃走した。


 希恵は川崎市に実家があり、掛けた電話番号の 011 は国際電話識別番号で、81は日本の国番号であることを知っていた。また、44は川崎市の044で、国際電話の場合、頭の0を抜かすので、この番号が実家のある川崎市であると確信した。

 実家が不安になった希恵は実家に電話をするとともに、ニューヨーク市警察に事件発生を通報した。


 ◇◇◇


午前11時ころ、川崎市幸区の戸建ての住宅で、爆発事故が発生した。

 被害に合ったのは外務省に務める伊地知守と、妻の貴子の家であった。貴子は神奈川県庁の職員で二人には子どもはなく、二人とも職場にいて幸いにも難を逃れた。

 また爆発の規模が小さくて、他の家に被害は及ばずに済んだ。


 消防と神奈川県警察の調査の結果、爆発したのは電話機を置いてあった付近と判明した。

 現場に立ち会った二人の話から、置いてあった電話機は白だったのに、発見された電話機の破片は黒であった。

 以上から爆発の原因は、何者かが爆発物を仕込んだ電話機にすり替えたと判断され、事故から事件に切り変えられた。

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