Ⅲ 二人のジョージィ・アイコ
4月1日、 日本では「四月馬鹿」と呼ばれる日、ニューヨークの5番街では49丁目から57丁目まで、ヒヨコやタマゴ、ウサギなどの帽子を被り、仮装した人たちによるイースターパレードが行われていた。
ニューヨーカーにはお馴染みのお祭りで、大勢の人でにぎわっていた。
この日、ニューヨークの片隅で、ジョージィ・アイコという名の女児の四歳の誕生パーティーが行われていた。
母の名は「ジョージィ・アイコ・シンプソン」
父の名は「スコット・シンプソン」という。
だが、パーティーの席にスコットの姿はなかった。
「ママ、今日もパパは帰ってこないの?」
「パパは仕事が忙しいのよ、もうすぐ帰ってくるからね、待ってるのよ」
と、ジョージィはジョージィ(*)を宥めたが、ジョージィ自身もスコットが心配でたまらなかった。娘のジョージィには言っていないが夫のスコットは三か月前から、行方不明となっていた。
(*)母と四歳の娘は二人とも同じジョージィという名前である。
「ジョージィ・アイコ」という名は祖父母の代から引き継がれていて、ジョージィの父方の祖母はエストニアの出身で「ジョージィ」という名であった。
祖父はロシア連邦(当時はソ連)のカレリア共和国の出身で「ルハエスコフ」という名であった。
二人の間にできた男児は「ミケラエフ」という名であった。
女児の母の「ジョージィ・アイコ」の母方の祖母は「愛子」という名の日本人で、祖父は「クリストファー・ジェームソン」というイギリス系アメリカ人で、二人の間にできた子は「マリアンナ・ジェームソン・アイコ」であった。
「マリアンナ・ジェームソン・アイコ」と「ミケレエフ・ジョージィ・ルスエフコフ」が結婚して生まれた子が「ジョージィ、ルスエフコフ・アイコ」だが「マリアンナ」と「ミケレエフ」は離婚して、母マリアンナの旧姓に戻り「ジョージィ・ルスエフコフ・アイコ」から、「ジョージィ・ジェームソン・アイコ」となった。
その後「ジョージィ・ジェームソン・アイコ」は19才のとき、「スコット・シンプソン」と結婚して「ジョージィ・シンプソン・アイコ」となった。
「今日誕生会を行っている女児の名も母と同じ「ジョージィ・アイコ・シンプソン」である。
と、ややっこしい名前の一家であるが、以後女児は「リトルジョージィ」
女児の母は「ジョージィ」
「ジョージィ」の母親のマリアンナは「マリア」と呼ぶこととする。
三代前からひもとくと、ジョージィには、カレリア、ロシア、エストニア、リトアニア、イギリス、アメリカ、日本と、七つの血が流れていて、名前と同じくらい複雑である。だがジョージィはその血の数以上の波乱に満ちた半生を歩んできた。
◇◇◇◇
ジョージィと母マリアと父ルスエフコフの一家は、ジョージィが8才になるまで、ボストンで暮らしていた。隣にはスコット・シンプソンという10才の男の子が住んでいた。
ところがジョージィの母、マリアとスコットの父親のトーマスが不倫関係となり、両家の夫婦とも離婚することとなった。夫ルスエスコフと別れたマリアはジョージィを連れて、ニューヨークに住むこととなった。
しかし、マリアの奔放な性格は治ることはなく、毎日違う男が家に出入りする生活が続いた。
そんなマリアにも真剣に愛してくれる人が現れて、二人は結婚することとなった。
その人は菊池章一郎といい、大洋三星商事という日本の総合商社のニューヨーク支店に勤める人であった
母のマリアが菊池の籍に入り「マリア・キクチ」となった日から、娘のジョージィは「ジョージィ・アイコ・キクチ」となった。
それから三年後、菊池章一郎は帰国することとなったが、大学に入学したばかりのジョージィはニューヨークに残り、一人で暮らすこととなった。
ある日、ボストンで別れたスコット・シンプソンがジョージィを訪ねて来た。
スコットもニューヨークの大学生になっていて、二人はその日のうちに結ばれて、一か月後に正式に結婚した。しかし、スコットは奨学金以外に収入がなく、経済的に苦しくて言い争いが絶えない日が続いた。ジョージィはそんな生活に耐えきれず、大学を中退して母のマリアがいる日本へ行くこととなった。
そのころ菊池章一郎は子会社の精密機器製造会社の社長になっていて、母親のマリアは何一つ不自由のない裕福な暮らしをしていた。
会社から貸与された住宅は、代々木上原の高級住宅街の中でもひと際目立つ豪華な家であった。
ジョージィも離婚が成立するまでしばらくはこの家に住み、仕事を探すことにした。ところがジョージィの美しさはひと際目立ち、周りが放っておかなかった。
芸能プロダクションが追いかけ回り、代々木上原にはカメラを持った人たちが押し寄せた。
芸能界に入ったとしたら、スコットに居場所を知られ、連れ戻されるのではないかと恐れたジョージィは、菊池章一郎の会社と取引がある「ボスロフ商会」という会社に就職することとなった。
ボスロフ商会はボスロフというクリミア半島出身のロシア人が代表を務めていて、新宿のツインタワーのB棟にオフィスがあった。
ツインタワーのA棟には港南中央物産という会社があって、第三事業部と呼ばれる部に、原島省三と奈津美がいた。
ある日原島が、A棟のエレベーターに乗るところを間違ってB棟のエレベーターに乗ってしまい、25 階のジョージィのオフィスの階まで二人きりになった。
これがきっかけでジョージィと原島は交際が始まり、恋人どうしとなり、ジョージィは向島の原島のマンションで暮らすことになった。
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