第51話 ある名無し門番の迷走

◇名無し門番side


一時はどうなるかと思ったが、ルートさんの助けもあって、無事、第三警備隊の奴らから通行料を取り上げる事が出来た。


ざまぁみろ。


いつも、俺達に仕事を押し付けてるお返しだ。

だが、今回ばかりは、あいつらにも少しは感謝をしておこう。

おかげで、ルートさんと普段の一カ月分は、喋る事が出来たのだから。


あいつらを追い払ったルートさんが、ゆっくりとこちらに向かって来る。

さらさらの銀髪揺らして、陽の光に照らされた神々しい姿は、事務所で見かける、いつものルートさんとは違った良さがある。


「もう、大丈夫?」


「はい。フォローして頂き、ありがとうございます!」


「今回みたいな異常時は、しょうがないって、思うかも知れないけどさ、あんまり、私達に頼りすぎても駄目だからね」


「わ、分かりました。マニュアル通りの対応で、これからも気を付けます」


「いやいや、そうじゃなくてさ、柔軟に対応してって事よ。結局、マニュアルばっかりだと、肝心の人としての対応力って奴が鍛えられないから、器の小さい男になっちゃうよ?」


「器の小さい……そ、それは困ります!」


「でしょ? 今ならまだ間に合うからさ、そんなマニュアル通りに生きてる、クソダサい男になっちゃ駄目だよ」


「は、はい。気を付けます」


「それに、その盾、似合って無いし、眩しいから、職場に持ってこないでくれる?」


「は、はい! すいませんでした!!」


今日のルートさんは、あいつらに業務を邪魔されたからか、口調も、ちょっと厳しい気がする。

まるで、先程、カーマが言っていた冗談の様な口調だ。


「うん。じゃあ、この調子で後半も宜しくね。なんとか君」


「え? ……あっはい」



ルートさんは、そのまま、俺の名前を呼ぶ事無く、正門前を後にした。


どうやら、この前の給料授与式では呼んでくれた、俺の名前を忘れたらしい。

ルートさんの去った正門前は、トラブルを解決出来たというのに、沈んだ空気が立ち込めていた。


あの時、俺は、セルドの取引に乗った方が良かったのだろうか。

正門の受付をしながら答えを探すが、日が暮れても、どちらが、正解だったかは導き出す事は出来なかった。

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