彼はやり尽くした

ピチャ

彼はやり尽くした

 愚かな人を見るのはつまらない。この世の直接関わっていない何人が私を楽しませてくれるというのか。

 頭の良さを測るものを作るには、そのとき賢い人たちが担当する。

しかしそのとき賢い人が、いつどのような場所でも賢いとは限らない。よって、その人が不死身でもない限り、賢さは形を変えてゆくのだ。

賢さとは与えられた環境の本質を見る力だ。

本質を見てしまったと感じた人は、それ以降刺激が少なくなるように感じる。

それを超える快楽がないからだ。

しかしそれでは満足しない。そして、人は快楽を求め、その社会でタブーとされていることに手を出し始める。

人の身体を壊さないため、人権を守るために作られた法律。そんなもの特例には関係ない。

その頃には、とっくにその人は孤独になっている。高みも目指し終えた、危ないことも一通りし終えた、世界も旅行しつくして、制限されたプレーもこなして。それでも生きていたら、人は何をすべきなのだろう。

老後?いいえ、その人は老いてもいない。

新しいものを作る?考えたものはみな作れた。

すると、人はただ退屈になる。

その退屈な手の上で、作られた世界は動く。


 同じパターンを何度見ただろうか。

子どもの様子を見ても、将来がほぼ正確に予測できるようになってしまった。

次にどんな言動をするかもなんとなくわかり、それに少しの情報を与えると誘導することさえできる。

迷惑な輩を止めることもできる。なかなか止まらない者に様々な手法を試すのは心地よくさえある。

運命に抗う者を少しずつ抑制し、少しずつ情報を与える。

すると計画した通りの人格に育ってゆく。

新しさだけが癒しだ。

既存のものはもうやり尽くした。新しいものを生み出す瞬間だけを見ていたい。

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彼はやり尽くした ピチャ @yuhanagiya

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