第335話 新たなる魔神

「ゲルガって、ザルドゥの四天王のゲルガだよね?」


 彼方の質問にキリーネがうなずく。


「計算高い奴らしい選択ではあるな。デスアリスはお前に殺されてしまったし、ゼルズはザルドゥ様を超える存在と噂されている魔神だ。戦うより手下になったほうがいいと考えたのだろう」

「……そっか」


 彼方は親指の爪を唇に寄せて考え込む。


 ――ザルドゥより強い魔神か。ゲルガと手を組んだってことはヨム国に侵攻してくる可能性もあるのか。となると……。


「で、ガラドスはゼルズと手を組まないことを選択したんだね」

「……どうしてそう思う?」

「ゼルズと手を組んだら、君が僕に会いに来る理由がないだろ?」

「ふんっ! 相変わらず、頭の回転が速い男だ」


 キリーネの眉間にしわが刻まれる。


「まあいい。情報だけ伝えておく。魔神ゼルズは既にジウス大陸にいる。一万の軍隊といっしょにな」

「数はそこまで多くないね」

「その代わり、精鋭が集まっているぞ。四天王クラスの配下もそれなりにいるようだ」

「それなりに……か」

「それにゼルズはゲルガと手を組んだのだから、奴の十万の軍隊を使うことができる。お前の領地を攻める数としては十分だろうな」

「攻めてくるの?」

「確実にな」


 キリーネは、きっぱりと言い切った。


「ただ、その前にゼルズが攻めるのはガラドス様がいるグルグ高地だろう。ガラドス様を倒せば、さらに配下を増やせるからな」

「……ガラドスはゼルズに勝てるの?」


 彼方の質問にキリーネは数秒間、沈黙した。


 そして――。


「……無理だろう。ゼルズがザルドゥ様より上の存在ならな」


 キリーネは青白い唇を歪めた。


「ガラドス様は強者だが、ゼルズと戦って勝てる可能性は……ない」

「なのにガラドスはゼルズと戦うと言って、君を困らせているってわけか」

「……そうだ」


 キリーネは彼方をにらみつけた。


「ガラドス様もゼルズと組むべきなのだ。生き残るためには、それが正しい選択だ」

「正しい選択……か」


 彼方は寝癖のついた髪に触れる。


 ――たしかにガラドスの立場からすれば、魔神ゼルズの配下になったほうがいいだろうな。同じ四天王のゲルガもゼルズと手を組んだんだし。


 ――まあ、ガラドスがゼルズと戦う選択をしたことは、僕にとっては悪くない……か。敵の敵は味方って言葉もあるし。それなら、僕の選択は……。


「キリーネ。僕と組まない?」

「お前と?」


 キリーネは首をかしげる。


「ヨム国と組むということか?」

「いや、それは僕に権限がないから無理だよ。でも、個人的に君と組むのはいいかなと思って」


「おいっ! 彼方」


 無言だったティアナールが口を開いた。


「モンスターと組むつもりなのか?」

「キリーネは信頼できるからね。それにガラドスも」


 彼方が言った。


「逆にジウス大陸に攻め込んできたゼルズと交渉するのは難しそうだし、ゲルガも性格的に問題がありそうだから」

「それは……そうだろうが」


 ティアナールは金色の眉を眉間に寄せる。


「何より、ガラドスに死んでもらったら困るんだよ。せっかく三年間の休戦協定を結んでいるのに」


「氷室彼方」


 キリーネが彼方の肩を掴む。


「お前は何を考えている? ガラドス様ではなく、私と組むと言うのか?」

「ガラドスは僕と組まないだろ? 性格的に計算で動くタイプでもないし」

「……ちっ! で、お前は私に何を望む?」

「魔神ゼルズの情報と架空の地位かな」

「架空の地位?」

「うん。君の部下としてゼルズの軍隊と戦う地位をね」


 彼方の言葉にキリーネの赤い目が丸くなった。 

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