第334話 情報
数日後、彼方、香鈴、ティアナール、ミケ、レーネは王都を出て、飛行船が隠してあるゴーレム村に向かっていた。
薄暗い森の中を歩きながら、レーネが口を開く。
「で、結局、五歳の子との婚約は保留にしたのね」
「う、うん」
彼方はもごもごと口を動かす。
「ふーん。貴族との婚約話は全て断るって言ってたよね?」
「仕方ないだろ。断ろうとしたら、リリエッタが泣いちゃって」
「泣いた?」
「うん。英雄のお嫁さんになりたいって」
「それで断り切れなかったわけか。彼方らしいけど」
レーネは彼方の顔を覗き込む。
「まあ、保留しておくのは悪くない手かもね。英雄氷室彼方を娘の夫にできる可能性があるのなら、貴族たちも敵対行為に走ることはないだろうし」
「そうだな」とティアナールが言った。
「味方になってくれる貴族は多いほうがいい。彼方を狙う勢力はいくつもあるからな」
「キルハ城にいる兵士は百人ぐらいだけど大丈夫なの?」
「最低でも千人は欲しいところだな」
ティアナールが答えた。
「まあ、サダル国の侵攻は当分ないだろうし、あったとしてもカーティスがいる南のリシウス城が先に狙われる。注意すべきは四天王ゲルガの軍隊だ。奴らは西側の森から一気にキルハ城を攻めることができる。そうなれば百人でキルハ城を守るのは厳しい」
「うん。カーリュス教もゲルガと連絡を取ってるみたいだから、注意したほうがいいよ」
「ゲルガと?」
彼方の眉がぴくりと動いた。
「カーリュス教の信者がゲルガと接触してるって情報屋が教えてくれたの。あなたの情報を集めてるみたい」
「僕の情報か」
「あなたが王宮で千人殺しのリックルに勝ったことも知られてたわ」
「なんだとっ!?」
ティアナールが驚きの声をあげた。
「あの時、王宮にいたのは有力な貴族ばかりだったぞ。それなのに情報がカーリュス教の奴らに漏れているのか?」
「重要な情報はお金になるしね」
レーネは肩をすくめる。
「まっ、その場所にいた魔道師や兵士が情報を漏らした可能性もあるかな」
「金のためにヨム国の英雄の情報を流すとは…………」
ティアナールの眉間に深いしわが寄る。
「これは危険が危ないにゃ」
ミケが言った。
「彼方がしっぽ大好きってバレてしまうにゃ」
「いや、しっぽにこだわりはないから」
彼方はミケに突っ込みを入れる。
「まあ、あの模擬戦の情報が漏れても問題ないよ。バレてもいいような戦い方をしたから」
「バレてもいいような戦い方?」
ティアナールは首をかしげた。
「うん。少しだけどカードの発動も遅らせたし、呪文を詠唱してるふりもしたからね。その情報が広まってくれるのなら、より戦いやすくなるよ」
「そんなことまで考えて戦っていたのか?」
「まあね。もらった報酬で秘薬を買うみたいなこともいろんな人に話したし、うまくニセの情報を広められてると思う」
彼方は仲間たちを見回す。
――僕自身のことより、みんなを守るためにキルハ城を安全な場所にするのが先決か。お金の問題もあるけど、兵士の数も増やしておくべきだろうな。
その時、前方の茂みが音を立てた。
彼方、ティアナール、レーネがすぐに反応する。
香鈴とミケの前に出て、武器を構えた。
「誰だっ!」
ティアナールが声をあげると、額に角を生やした二十代の女が姿を見せた。
女の瞳は赤く、唇の両端から白い牙が見えている。
「あれ? キリーネじゃないか」
彼方は四天王ガラドスの参謀の名を口にした。
「やっと王都から出てきたか。氷室彼方」
キリーネはゆっくりと彼方に歩み寄る。
「どうしたの? 君がこんなところにいるなんて」
「ガラドス様の命令で、お前に情報を伝えに来たのだ」
「何の情報?」
「ゲルガがマゾン島の魔神ゼルズと手を組んだという情報だ」
その言葉に彼方の表情が硬くなった。
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