第318話 扉の前の戦い5
「うりゃああああっ!」
透明な壁を戟で壊しながら、呂華はデスアリスに突っ込んだ。
デスアリスは下がりながら呪文を詠唱する。
呂華の体を紫色の霧が包んだ。呂華の動きが鈍くなる。
「こっ…………この程度でっ!」
それでも呂華は前に出た。
左足を斜め前に出し、戟を真横に振った。デスアリスのドレスが裂ける。
「残念だったわね」
デスアリスは右手を素早く前に出す。ピンク色の爪が一メートル以上伸びて、呂華の胸元に刺さった。
「ぐっ…………」
呂華は上半身をそらしながら、不自然な体勢で後ろに跳ぶ。
その動きに合わせて、デスアリスは左手を突き出す。
青白い炎が呂華の体を包んだ。
「それがどうしたっ!」
呂華は炎を無視して、攻撃を続ける。
「ちっ! しぶといわね」
デスアリスの眉間にしわが寄る。
その時、彼方の呪文が発動した。
◇◇◇
【呪文カード:闇月の鎖】
【レア度:★★★★★★(6) 属性:闇 対象の動きを止め、闇属性のダメージを与える。再使用時間:10日】
◇◇◇
黒い鎖がデスアリスに絡みつく。
同時に呂華の攻撃が、デスアリスの左腕を叩き斬った。
――ここで決める!
彼方は別の呪文カードを選択した。
◇◇◇
【呪文カード:冥界神の裁き】
【レア度:★★★★★★★★★(9) 属性:闇 対象に強力な闇属性のダメージを与える。この呪文を使用した場合、闇属性のカードを二日間使用することはできない。再使用時間:20日】
◇◇◇
黒い球体がデスアリスの胸元に当たり、爆発した。
デスアリスの体が十メートル以上飛ばされる。
――これで、どうだ?
彼方は呼吸を整えながら、倒れているデスアリスを見つめる。
――★九の冥界神の裁きをまともに食らえば…………。
五秒も経たないうちにデスアリスが立ち上がった。
彼方の表情が険しくなる。
――ダメージはあるみたいだけど、まだ、表情や動きに余裕がある。
「とんでもない呪文ね」
デスアリスは右手で自身の髪をかきあげる。
「こんな強力な呪文を無詠唱で使えるなんて。ほんと、面倒だわ」
「それは僕のセリフだよ」
彼方はデスアリスから視線を外さずに頭をかく。
「さっきの呪文で倒せると思ったんだけどな」
「…………その言い方…………他にも強力な呪文を使えるみたいね」
デスアリスの声が低くなった。
「やっぱり、本気で戦うしかないか」
「今までは本気じゃなかったってこと?」
「本気だったわ。この姿ではね」
「この姿では?」
「…………そう」
デスアリスの右腕が五倍以上膨らみ、破裂した。
青紫色の血が飛び散り、赤黒い虫の脚が地面に突き刺さった。さらに胴体が伸び、脇腹の部分から、虫の脚が次々と突き出てくる。
デスアリスの頭部から触角が生え、裂けた口から黒いキバが見えた。
――これは…………ムカデか。
ヘビのように鎌首をもたげている巨大なムカデを見て、彼方の口中がからからに乾いた。
全長は二十メートルを超えていて、黒光りする背中の部分にはデスアリスの顔が無数に埋め込まれていた。
「さあ…………」
無数の顔の唇が一斉に動いた。
「本気の戦いを始めましょうか」
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