第317話 扉の前の戦い4

「伊緒里っ!」

「わかってるっ!」


 彼方の言葉に伊緒里が反応した。

 日本刀を片手で握り、一気にデスアリスに走り寄る。


「脇役は必要ないわ」


 デスアリスは軽く右手を振った。

 半透明の壁が三つ現れ、伊緒里の行く手をはばむ。


 ――呪文の発動が速いし慣れてるな。魔道師タイプか。ならば…………。


 彼方は一直線にデスアリスに突っ込む。


 デスアリスは笑みを浮かべたまま、薄い唇を動かす。彼女の目の前に青黒い斧が具現化された。斧の刃には、びっしりと魔法の文字が刻まれている。


 ――斧? 白兵戦にも自信があるのか? いや、それでも。


 彼方はスピードを緩めることなく、デスアリスに近づく。


「もろい人間が無茶するわね」


 デスアリスは左足を前に出し、掴んだ斧を無造作に振った。その攻撃を彼方は転がりながらかわし、聖水の短剣を振る。

 青い刃が伸び、デスアリスの左足に当たる。

 硬い岩を叩いたような感覚に彼方は奥歯を噛んだ。


 ――皮膚一枚ってところか。


 体勢を崩した彼方に向かって、デスアリスが斧を振り下ろした。その攻撃を彼方は聖水の短剣で受ける。


 ――力も強いな。ネーデの腕輪で強化してる僕と変わらない。


「なら、これはどう?」


 デスアリスは右手を彼方に向ける。白い手のひらが青白く輝いた。

 彼方は左手でデスアリスの右手を払う。同時に青白い炎が噴き出した。


「それなら、こっちね」


 デスアリスは上半身をひねって、青白い炎を斜め後ろから近づいていた伊緒里に向けた。

 その炎を伊緒里は右に跳んで避ける。しかし、炎は直角に曲がり、伊緒里の体を包んだ。


「ぐうっ…………」


 伊緒里は顔を歪めながら、日本刀を投げた。

 半透明の壁が現れ、日本刀を弾く。


 彼方は伊緒里をカードに戻して、別の召喚カードを選択する。


◇◇◇

【召喚カード:武神呂布の子孫 呂華】

【レア度:★★★★★★★★★(9) 属性:地 攻撃力:9900 防御力:4800 体力:5200 魔力:0 能力:防御力無効、防具無効の強力な攻撃を対象に与える。召喚時間:3時間。再使用時間:25日】

【フレーバーテキスト:りょ、呂華が出たぞーっ! 逃げろーっ!】

◇◇◇


 中華風の鎧を装備した十八歳ぐらいの少女が召喚された。

 少女は切れ長の目をしていて、長い黒髪を後ろに束ねていた。肌は小麦色で、右手には槍と斧が組み合わさったような武器――げきを持っている。


「呂華っ! ドレス姿の女を倒せ!」

「任務了解っ!」


 呂華は白い歯を見せて、デスアリスに突っ込む。

 デスアリスは半透明の壁を出して、滑るように下がった。


「魔法の壁ぐらいで、この呂華を止められるものかっ!」


 呂華は渾身の力を込めて、戟を真横に振った。圧倒的な力が半透明の壁を壊した。


「その首、もらい受けるっ!」


 呂華の戟がデスアリスの斧を叩き折り、彼女の脇腹に当たった。

 デスアリスの体が大きく飛ばされ、壁にぶつかる。


「手応えあり…………と思ったんだけどなぁ」


 ドレスについた小石を払っているデスアリスを見て、呂華はカチリと歯を鳴らす。


「まあ、いいや。胴体がダメなら、頭を叩き割ればいいし」


 その時、開いた扉から三人のダークエルフが現れた。


 ――まずい! 下には多くのモンスターがいるはずだ。呼ばれる前に倒さないと。


「呂華っ! デスアリスはまかせる」


 そう言って、彼方は走り出す。

 背の高いダークエルフが彼方の接近に気づいた。


 ――気づくのが一秒遅いっ!


 彼方が選択した呪文カードの効果が発動した。


◇◇◇

【呪文カード:インフェルノ】

【レア度:★★★★★(5) 属性:火 複数の対象に火属性のダメージを与える。再使用時間:7日】

◇◇◇


 オレンジ色の炎がダークエルフたちの体を包む。


「がああああっ」


 ダークエルフたちは悲鳴をあげながら、次々と倒れた。

 視線を扉の奥に向けると、長い階段が見える。


 ――この場所なら。


 彼方は新たな召喚カードを選択した。


◇◇◇

【召喚カード:妖精森のドリアード プラム】

【レア度:★★★★★★★(7) 属性:地 攻撃力:1000 防御力:1500 体力:4200 魔力:5400 能力:様々な効果を持つ植物を操作できる。召喚時間:5時間。再使用時間:17日】

【フレーバーテキスト:このプラムちゃんと戦おうなんて、草が生えちゃうって】

◇◇◇


 彼方の前に淡い緑色の髪をした十五歳ぐらいの少女が現れた。肌は色白で胸は大きく、黄緑色のセパレートタイプの服を着ていた。左右の腕には草のつるのようなものが巻きついている。


「プラムっ! 君の能力で階段をふさいで!」


 彼方は喋ろうとしたプラムの口に手を寄せる。


「お喋りは後で。よろしく!」


 彼方は呂華と戦っているデスアリスに視線を向ける。

 デスアリスは半透明の壁を次々と具現化しながら、呂華の攻撃を避けている。


 ――あの表情…………まだ、余裕があるな。


 ――最強呪文『無限の魔法陣』を使えば、デスアリスを倒せるはずだ。だけど、その後、二日間もカードが使えなくなる。それは避けたい。


 彼方は唇を強く噛み、デスアリスに向かって走り出した。

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