第316話 扉の前の戦い3

「死ねえええっ!」


 アルマは黄金の槍を突き出す。先端の刃が飛び出した。


 彼方は上半身をそらして、それをかわす。


「ここからだっ!」


 アルマは大きく足を踏み出し、黄金の槍を突き出した。その先端には新たな刃が具現化されている。

 低い姿勢からの鋭い突きを彼方は聖水の短剣で弾き返す。ネーデの腕輪で強化された彼方の力がアルマの体勢を崩した。


 彼方が聖水の短剣を振り下ろすと同時にアルマは後ろに跳んだ。


 ――逃がさないよ。


 聖水の短剣の刃がさらに伸びた。青白い刃の先端がアルマの肩を斬る。

 苦悶の表情を浮かべながら、アルマは黄金の槍を突いた。

 その攻撃を彼方はネーデの腕輪で正確に受ける。


 彼方は一気に前に出て、聖水の短剣を斜めに振った。

 アルマは黄金の槍で頭部を守る。


 その瞬間――。


 聖水の短剣の刃の軌道が急角度で変化した。青白い刃がアルマの腹部を斬り、青紫色の血が噴き出す。


「があっ…………」


 アルマは倒れ込みながら、黄金の槍の先端を彼方に向ける。


「もう、無理だよっ!」


 彼方は黄金の槍を右足で蹴り上げ、聖水の短剣でアルマの胸を突いた。


「かっ…………」


 アルマの口が大きく開き、青紫色の血が地面を濡らす。


「も…………申し訳…………ありません。デスアリス…………様。私は役に…………立たなかっ…………」


 アルマの瞳から輝きがなくなり、人の形をした炎も消えた。


 ――これで残りはオークだけだ。


 振り返ると、オーク――ダルグの首が日本刀で飛ばされていた。

 頭部のなくなったダルグが横倒しになる。


 ――と、もう、伊緒里が倒しちゃったか。


 彼方は伊緒里に歩み寄った。


「問題なく倒せたみたいだね」

「彼方の攻撃呪文のせいでね」


 伊緒里は頬を膨らませる。


「なかなか強い相手だったし、助力なしで戦いたかったなぁ」

「そんな状況じゃないからね。少しでも早く敵を倒さないと、また別の敵が…………」


 その時、巨大な扉が開いて、黒いドレス姿の少女が姿を見せた。年齢は十三歳ぐらいで、薄い紫色の髪をツインテールにしている。瞳は髪と同じ薄い紫色をしていて、口元に小さなほくろがあった。

 少女の視線と彼方の視線が重なった。


「…………氷室彼方ね?」

「デスアリスかな?」


 彼方は少女――デスアリスの質問に質問で返した。


「…………ええ。まさか、こんなところで会えるなんて」


 デスアリスは金色の首輪に触れながら、すっと目を細くする。


「で、何の用かしら?」

「僕と仲間を守るために君を殺しておこうと思って」


 彼方は淡々とした口調で答えた。


「…………へーっ。ひどいこと考えるのね」

「君が先にやったことだろ?」


「まあね」と言って、デスアリスは倒れていたアルマを見る。


「あなたはザルドゥ様を殺し、ネフュータスを殺した。そして…………アルマも殺したのね」

「君たちが戦いを望んだからね」

「私たちが悪いってこと?」

「悪いかどうかはわからないよ。でも、他の選択肢があったと思う」


 彼方は伊緒里の隣に移動しながら、言葉を続ける。


「ガラドスみたいに、あなたと仲良くするってこと?」

「そのほうがいいと思うよ。お互いに殺されることがなくなるし」

「お互いに…………か」


 デスアリスの口角が吊り上がった。


「悪い話じゃないと思うけど、君にその気はないみたいだね」

「どうしてそう思うの?」

「君の表情と言葉からかな。自分が死ぬはずがないと思ってる。ただ…………」


 彼方は、じっとデスアリスを見つめる。


「何か問題がありそうだね」

「問題?」

「うん。君が絶対的な力を持ってるのなら、もっとアクティブに動いてる気がする。用心深い性格もあるのかもしれないけど、少し気になってさ」

「そんなに知りたいのなら、教えてあげるわ」

「…………いいの?」

「ええ。どうせ、あなたは、ここで死ぬんだし」


 デスアリスの瞳孔が縦に長くなった。


「私が本気で戦うと、寿命が縮むの」

「…………なるほど。それで自分では戦わなかったんだ」

「なるべくね。でも、戦えないわけじゃない。百年以上の命を縮めても殺さなければいけない相手はいるから」

「それが僕ってことかな?」


「そうね」とデスアリスが答えた。


「これでわかったでしょ。私の秘密は弱点にならない。つまり、調子に乗って、私の前にいるあなたの死は確定してるの」

「それは、まだわからないよ」

「わからない?」

「うん。君の本気より、僕の能力のほうが上かもしれないし」

「…………ふふっ」


 デスアリスは白い手で口元を押さえて微笑した。


「いいわ。じゃあ、どっちが真の強者か、この場で決めることにしましょう」


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