第319話 扉の前の戦い6
――これがデスアリスの正体か。
ヘビのようにとぐろを巻く巨大なムカデを見て、彼方の背中に汗がにじむ。
――背中の顔の視線がバラバラだ。一つ一つの顔ごとに意識があるのか?
――今まで戦ったモンスターとは違うな。どんな攻撃を仕掛けてくるか、予想がしにくい。ここは…………。
「呂華っ! 頼む!」
「言われなくてもっ!」
呂華は片方の唇の端を吊り上げて、デスアリスに突っ込んだ。大きく上半身をひねり、戟を振った。
赤黒い脚が斬れるが、別の脚が呂華の鎧を斬る。
「一本でダメなら、全部の脚を斬って、ヘビにしてやる!」
呂華は右回りに移動しながら、戟を振り回す。
その時、背中に埋め込まれていたデスアリスの顔が一斉に呪文を唱えた。
金色に輝く光球が百以上現れ、呂華に襲い掛かる。
呂華は両足を開き、戟で光球を叩き落とす。
しかし、全ての光球に対応することはできなかった。背後から回り込んだ光球が呂華の背中に当たり、爆発した。
呂華の体が飛ばされる。
――光球の数が多くて、避けるのは厳しいか。呂華の防御力と体力は高めだけど、このままじゃ、やられる。
彼方は呂華をカードに戻して、新たなカードを選択した。
◇◇◇
【召喚カード:機械仕掛けの破壊兵器 ギアドラゴン】
【レア度:★★★★★★★★★(9) 属性:無 攻撃力:9000 防御力:6500 体力:7500 魔力:0 全体攻撃に特化したドラゴン。能力:物理攻撃ダメージ半減。召喚時間:2時間。再使用時間:25日】
【フレーバーテキスト:バカなっ! 機械王国メルダは、こんな化け物を創り出していたのか(勇者クラムド)】
◇◇◇
全長十五メートル以上のドラゴンが召喚された。全身が透明の皮膚に覆われていて、皮膚の中には数百万個の黄金色の歯車がカチカチと音を立てて動いている。頭部には五つのレンズがあり、両肩には魔法の文字が刻まれた大砲が取り付けられていた。
「ギアドラゴン! デスアリスを倒せ!」
「メイレイをジッコウする」
機械的な言葉を発し、ギアドラゴンが動き出した。
金色の光球の攻撃を無視して、ギアドラゴンは両翼を大きく開いた。その翼から数十の銃身が飛び出した。銃身から、青白いレーザ光線が照射される。
背中に埋め込まれたデスアリスの顔が焼け、黒く変化する。
彼方は周囲に浮かんでいる光球の数が減ったことに気づいた。
「ギアドラゴン! 背中の顔をどんどん狙って!」
そう指示をしながら、聖水の短剣をカードに戻す。
――巨大なモンスター相手なら…………。
◇◇◇
【アイテムカード:神殺しの斧】
【レア度:★★★★★★★(7) オリハルコンさえも砕く最強の斧。相手の防御力を弱体化する。具現化時間:3時間。再使用時間:15日】
◇◇◇
赤紫色の刃を持ついびつな形の斧が具現化された。
――デスアリスはギアドラゴンに意識が向くはず。隙があれば、神殺しの斧で頭部を狙う。
彼方は神殺しの斧を強く握り締める。
ギアドラゴンの両肩の大砲から火球が発射された。オレンジ色の火球がデスアリスに当たり、爆発する。黒い皮膚の一部がえぐられ、ピンク色の肉が見えた。
デスアリスは無数の脚をカシャカシャと動かして、高速でギアドラゴンの背後に移動する。長い胴体がギアドラゴンに絡みつき、黒いキバがギアドラゴンの首を噛んだ。金色の歯車が裂けた皮膚からこぼれ落ちた。
「ギギ…………ギ…………」
ギアドラゴンはデスアリスと接触した状態でレーザー光線を照射する。背中のデスアリスの顔が焼け、周囲の光球の数が減った。
――今がチャンスだ!
彼方はギアドラゴンのしっぽに飛び乗り、背中を走った。
そして、ギアドラゴンに噛みついていた頭部に神殺しの斧を叩きつける。
グシャリと音がして、青紫色の血が噴き出した。
――これでどうだ?
一瞬、動きを止めたデスアリスだったが、すぐに長い首を振り回し、彼方を地面に落とした。
さらに七つの光球が彼方を襲う。
彼方はギアドラゴンの巨体に背を寄せて、前方から迫る光球だけを神殺しの斧で防いだ。
――ダメか。でも、光球の数は減ったし、頭部のダメージも大きいはず。
突然、周囲に浮かんでいた光球が消え、ギアドラゴンの頭上から無数の黒い糸が降り注いだ。
――この糸は…………拘束狙いか。魔力霧消の呪文カードを…………いや、あれは、まだ温存したい。
彼方は糸に触れないようにデスアリスから距離を取った。
――ギアドラゴンが動けないようなら、別の召喚カードを…………。
その時、背中に埋め込まれたデスアリスの顔たちが、新たな呪文を詠唱する。
淡い光がデスアリスの体を包み、全ての傷が再生した。
――回復呪文も使えるのか。面倒だな。
彼方は奥歯を強く噛み締めた。
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