第314話 扉の前の戦い

 彼方がバルジュの死体を岩陰に隠すと同時に、巨大な扉が開いた。


 扉から出てきたのは、ダークエルフの女、アルマだった。

 アルマは金色の瞳で周囲を見回す。


「おいっ! バルジュ! どこにいる?」

「どうした? アルマ」


 扉から青黒い鎧を装備したオークが姿を見せる。背丈は二メートル五十センチを超えていて、平均的なオークよりキバが二倍以上長い。


「門番のバルジュがいないのだ」

「飯でも食ってるんだろう。どうせ、敵など来ないだろうからな」

「それでは門番の意味がない!」


 アルマは不機嫌そうな顔で舌打ちをする。


「幹部の地位を狙ってるのなら、仕事はきっちりやってもらわねば」

「相変わらず真面目な女だな」

「お前が不真面目すぎるのだ。ダルグ」


 アルマはオークの名を口にした。


「それより、氷室彼方を殺す手は考えたのか?」


「まあな」とダルグが答えた。


「氷室彼方は化け物だ。奴と正面から戦ったら、勝つのは難しい」

「そんなことはわかってる。奴はラズイムだけではなく、ネフュータスもザルドゥ様も倒したのだからな」

「とはいえ、奴は人間だ。首を斬れば死ぬし、心臓を貫いても死ぬ」


 ダルグは腰に提げた黒い剣に触れる。


「少数精鋭の部隊で氷室彼方に奇襲をかけるのが確実だろうな」

「その準備はできてるのか?」

「ああ。俺の部下の中で百体の精鋭を集めた。こいつらと俺で氷室彼方を待ち伏せする」

「どこで待ち伏せするんだ?」

「どこでもいい。奴は自分の力を過信してるからな。単独で動くことが多い。キルハ城を監視してればチャンスはあるだろう」

「単純なお前らしい作戦だ」


 アルマは銀色の髪をかきあげる。


「まあいい。デスアリス様の期待を裏切るなよ」

「わかってる。ラズイムの奴は失敗したが、俺は…………んっ?」


 ダルグが鼻をひくひくと動かした。


「血の臭いがするぞ」

「血だと?」


 アルマが視線を左右に動かす。


 ――もう隠れるのは無理か。二人とも幹部のようだし、ここで倒しておく。


 彼方の周囲に三百枚のカードが浮かび上がる。


◇◇◇

【召喚カード:剣豪武蔵の子孫 伊緒里】

【レア度:★★★★★★★(7) 属性:風 攻撃力:6000 防御力:800 体力:1700 魔力:0 能力:風属性の日本刀を使う。召喚時間:7時間。再使用時間:20日】

【フレーバーテキスト:ご先祖様の名にかけて、剣なら誰にも負けない!】

◇◇◇


 彼方の前にセーラー服を着た少女が現れた。年は十七歳ぐらいで、髪はポニーテール。肌は小麦色で、強い意志を感じる目が僅かに吊り上がっていた。彼女の右手には鈍く輝く日本刀が握られていた。


「伊緒里っ! オークのほうを頼む! 僕がダークエルフを倒す!」

「委細承知! 僕にまかせて」


 伊緒里は日本刀を握り締め、ダルグに向かって走り出した。


 彼方は新たなカードを選択しながら、アルマに近づく。


◇◇◇

【呪文カード:六属性の矢】

【レア度:★★★(3) 六属性の矢で対象を攻撃する。再使用時間:10日】

◇◇◇


 彼方の上部に六本の輝く矢が出現した。


 同時にアルマとダルグも彼方たちに気づいた。


「氷室彼方かっ!」


 アルマは六本の矢を避けながら、腰に提げた金属の棒を手に取る。その棒が長く伸び、槍に変化する。


 ――マジックアイテムの槍か。近接戦闘にも自信があるようだな。動きも速い。


 彼方は、一瞬、視線を動かす。


 ――あのオーク…………伊緒里の攻撃を上手く受けてるな。だけど、すぐに伊緒里を倒せる程の力はないみたいだ。


 ――ならば、ダークエルフを早めに倒して、伊緒里の援護に入るか。


 彼方は走りながら、カードを選択した。

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