第312話 会議
その日の夜、キルハ城の一階にある大部屋に彼方、香鈴、ティアナール、ミケ、レーネ、エルメア、ニーアが集まった。
「…………というわけで、サダル国がここに攻めてくる可能性は低くなったよ」
彼方はテーブルの上に置いた地図に視線を落とす。
「だから、注意すべきは西にいるデスアリスの軍隊だね。彼女は好戦的だし、同じ四天王のゲルガと組んでる可能性もある」
「四天王ガラドスは大丈夫なのか?」
と、ティアナールが聞いた。
「ガラドスは少なくとも三年は攻めてこないはずだよ。僕と一対一の戦いを希望してるしね」
「なるほどな。で、どう動く?」
「こっちから攻めようと思ってる」
彼方の言葉にティアナールの表情が引き締まった。
「…………策としてはアリか。こっちは守りにくい状況だしな」
「うん。新しい村もあるし、軍隊で攻められると犠牲者も多く出るだろうから」
彼方は親指の爪を唇に寄せる。
「それにデスアリスを倒せば、配下のモンスターは、ばらばらになると思うし」
「だろうな」とダークエルフのエルメアが言った。
「デスアリスの幹部にも強者はいるが、彼女程の求心力はない。多くのモンスターはガラドスかゲルガの配下になるだろう」
「ガラドスの配下になってくれれば有り難いけどね」
「ねぇ、彼方」
シーフのレーネが彼方に声をかけた。
「もしかして、ひとりで攻める気なの?」
「君たちにはキルハ城を守って欲しいからね」
彼方は仲間たちを見回す。
「キルハ城には百人の兵士がいるし、君たちはいっしょにいたほうが安全だから」
「その代わり、あなたが危険になるでしょ」
レーネの黒い眉が吊り上げる。
「せめて、シーフの私だけでも連れて行くべきだと思うけど」
「ちょっと待て!」
ティアナールが口を挟んだ。
「彼方と二人で行動するなら、私のほうがいいだろう。なんせ、私と彼方はザルドゥの迷宮を二人で脱出したのだからな。相性もばっちりだ」
「ダメよ! ティアナールは隊長なんだから、兵士の指揮をしてもらわないと」
「それはリロエールにまかせておけばいい。あいつは子供っぽいが、部隊の指揮もやれるからな」
「でも、ティアナールのほうが安心感あるよ。元白龍騎士団の百人長だったんだし」
「どうやら、ミケの出番のようにゃ」
ミケが紫色の瞳を輝かせた。
「ミケが彼方と行くにゃ。ミケなら、彼方のご飯も用意できるし、しっぽも触らせてあげられるのにゃ」
「わっ、私はどうかな?」と香鈴が右手をあげる。
「私、回復呪文が使えるから、彼方くんの役に立てると思うの」
「ニーアは、お空飛べる」
有翼人のニーアがぱたぱたと白い翼を動かした。
「みんな、落ち着いて」
彼方はイスに座ったまま、両手を胸元まであげる。
「みんなの考えはわかったよ。でも、僕は大丈夫だから。ひとりだけどひとりじゃないしね」
「召喚呪文のことか」
ティアナールが彼方に聞いた。
「うん。もちろん、召喚時間はあるけど、死ぬことはないし頼もしい味方だよ」
「たしかに、お前が召喚した者たちは強者ばかりだったが…………」
「まだ、使ってない召喚カードもいっぱいあるからね」
彼方は木製のテーブルの上で両手の指を組み合わせる。
「大丈夫。攻め側なら、僕は負けないよ。危険だと思ったら、逃げる手段もいっぱいあるからね」
「ならば、約束してもらおうか」
「約束?」
「そうだ。絶対に死なずに戻って来るとな」
ティアナールは真っ直ぐに彼方を見つめる。
「お前はヨム国の英雄で、この地の領主だ。お前が死ねば多くの者が悲しみ、希望を失うことになるぞ」
「特にあなたがね」
ぼそりとレーネがティアナールに突っ込みを入れた。
「それはお前も同じだろ!」
ティアナールは隣にいたレーネの肩を軽く叩く。
「とっ、とにかく、私たちを悲しませるなよ」
「わかってる」
彼方は大きく首を縦に動かす。
――デスアリスは千年以上生きてる上位モンスターだ。どんな能力を持ってるか、わからないし、配下のモンスターも五万体以上いる。
――だけど、僕だって、この世界にはない特別な力を持っている。魔神ザルドゥさえも倒せた力を。
――ここでデスアリスを倒して、みんなを守ってみせる!
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