第309話 彼方vsラズイム3
「ぐ…………ぐぐっ…………」
ラズイムの転がった頭部がうめき声をあげて、どろりと溶けた。それがラズイムの足にくっつき頭部が再生される。
「すごい能力だけど…………」
彼方は深淵の剣を斜めに振り下ろす。
ラズイムの膨らんだ体がずれるように斬れた。
さらに彼方は攻撃を続ける。呪文カード『クロノスの祝福』でスピードを強化した彼方の動きにラズイムは対応できない。
「ぐがっ…………」
いくつもの透明な壁を重ねて、ラズイムは彼方から距離を取る。
突然、ラズイムの足元に魔法陣が現れた。魔法陣が輝き、ラズイムの体が黒い炎に包まれた。
「がああああっ!」
ラズイムの皮膚がどろりと溶ける。
「ひゃははっ! やっと罠にかかってくれたね」
水晶の柱の陰から、黄泉子が現れた。
黄泉子は赤い瞳を輝かせて、舌で上唇を舐める。
「闇の炎で、どろどろに溶けちゃいなさい」
「ひっ、ひいいっ!」
ラズイムは転がるように魔法陣から離れる。
「そろそろ命のストックもなくなったかな?」
彼方の言葉にラズイムの顔が歪んだ。
「こっ、こんなことが…………起こるわけがない。私が死ぬなど…………」
「自分の力を過信しすぎですよ。いくつもの命を持ってるあなたの能力は戦闘に有利だけど、絶対的な強さはないかな。攻撃力はいまいちみたいだし」
「くあああっ!」
気合の声をあげて、ラズイムは右手を彼方に向ける。先端が尖った氷の柱が彼方の心臓を狙う。
その柱を彼方は深淵の剣で斬った。一瞬で氷の柱が消える。
「無駄ですよ。この剣が呪文の効果を打ち消すことはわかってますよね。それに…………」
地面を滑るように移動してきたメタセラが彼方の隣で停止した。
「彼方様、残りの敵は、この男だけです」
「さすが★十のクリーチャーだね。予想より、だいぶ早かったよ」
彼方は視線をラズイムから外さずに口を動かした。
「じゃあ、最後は君にまかせるよ。多分、あと一度か二度殺せば、復活できなくなるはずだから」
「ご安心ください。このレベルの相手なら、残りの召喚時間で百回は殺せます」
抑揚のないメタセラの言葉にラズイムの戦意は喪失した。
◇
どろどろの液体となったまま、ラズイムは動かなくなった。
――やっと、死んだみたいだな。
ふっと息を吐き出し、彼方は額の汗を拭った。
「メタセラ! 一応、死体も焼いておいてくれるかな。万が一にも復活させると面倒だからね」
「了解しました」
メタセラは高出力のレーザーでラズイムの死体を焼き始めた。
――これで少しは落ち着くか。カーリュス教の地下神殿も潰したし、信者の数も減らせた。
――後は四天王のデスアリスが、どう動くかだな。諦めてくれれば楽なんだけど。
彼方はミュリックから聞いたデスアリスの情報を思い出す。
――デスアリスは四天王の中で一番長く、ザルドゥに仕えていたらしい。外見は十三歳ぐらいの女の子だけど、千年以上生きてるみたいだ。当然、頭もよくて、強い能力があるんだろう。
「どうしたの? あんまり嬉しくなさそう」
黄泉子が不思議そうに彼方の顔を覗き込む。
「敵を全滅させたんだから、もっと喜べばいいのに」
「今回はね。でも、まだ、危険な敵が残ってるから」
「ふーん。用心深いんだね。私たちの力を使えば、どんな相手でも楽勝だと思うけど?」
「たしかにカードの能力は、とんでもないよ。この大陸を支配しようとしてた魔神さえも倒せたんだからね」
そう言って、彼方は微笑する。
「僕の能力は、この世界の常識から、だいぶ外れてる。だから、多くの相手が僕に倒された。だけど、僕の情報はどんどん知られていくからね。戦えば戦うほど」
「それはそうだけど、まだ、使ってないカードもいっぱいあるんでしょ?」
「うん。二百枚以上使ってないかな」
彼方は即答した。
「ただ、どんなに強力なカードがあっても、奇襲を受けて使うチャンスがなかったら、どうにもならないからね」
「まあね。あなたが死んだら、カードの私たちも消滅しちゃうんだし、せいぜい命は大事にしてよね」
黄泉子は、ぽんぽんと彼方の肩を叩いた。
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