第307話 メタセラvsゴブリン勇者

「ギィイイイイイ!」


 甲高い鳴き声をあげて、ゴブリン勇者はメタセラの懐に潜り込んだ。右手に持った短剣を低い位置から振り上げる。


 メタセラはその攻撃を腕で受けた。

 その瞬間、メタセラの体に電気が走り、彼女の動きが止まる。


 ゴブリン勇者は体を捻るようにして蹴りを放つ。

メタセラの体が五メートル以上飛ばされた。


 その光景を見て、ラズイムがにやりと笑う。


「機械仕掛けには、やはり、雷系の攻撃ですね。あなたの切り札への対策は準備してますよ」


 ――しかし、あの人形…………壊れないか。攻撃力だけではなく、防御力も常識外れだな。ザルドゥ様とさしで戦っただけはある。


 ――まあいい。ゴブリン勇者が注意を引いている間に、金属を腐食させる呪文で人形の体を溶かしてやる。


「ラズイム様っ!」


 シーフらしき信者がラズイムに駆け寄った。


「杖を持った女を見つけました。多分、そいつが我々をここに転移させた魔道師です」

「いい情報です」


 ラズイムの瞳が輝いた。


――ならば、先にそいつを殺す。ここから脱出することが最優先だからな。


「皆さんはゴブリン勇者といっしょに機械仕掛けの人形の足を止めていてください。その間に、私が魔道師を殺します」


 ラズイムは膨らんだ腹を揺らしながら走り出した。身体強化の呪文を唱えながら、巨大な水晶の柱の横をすり抜ける。


 その時――。


◇◇◇

【呪文カード:サイコレーザー】

【レア度:★★★★★★★(7) 属性:無 対象に魔法防御無効の強力なダメージを与える。再使用時間:15日】

◇◇◇


 青白い光線がラズイムの首を飛ばした。


「があっ…………」


 ラズイムの頭部が転がり、樽のような巨体が横倒しになった。


 ◇


 彼方はゆっくりと倒れたラズイムに近づいた。

 その距離が十数メートルになった時、ラズイムの頭部がどろりと溶けた。青色の液体がずるずると地面を這い、胴体にくっつく。


「…………お見事ですね」


 ラズイムは笑顔で立ち上がり、首を軽く回す。


「私の首を飛ばすほど強力な高位呪文とは。しかし…………私には通じない」

「みたいだね」


 彼方は一歩下がって、腰を軽く落とす。


「…………核を壊さないと再生するってことかな?」

「そのようなものではありませんよ。私は不死なんです」

「不死? 死なないってこと?」

「そう。何をやってもね」


 ラズイムは唇の両端を吊り上げる。


「もし、ウソだと思うのなら、さっきの呪文をもう一度、使ってみたらどうです? 使えないでしょうけど」

「使えないって思うの?」

「はい。あなたの情報を精査するとね。あなたは同じ呪文を連続で使っていない」

「…………」


「おやおや。図星ですか」


 ラズイムは細くした目を輝かせた。


「あなたは必死に自分の能力を隠そうとしてますが、もう無理です。多くの者があなたに興味を持ち、その能力を解析しようとしてますからね」

「だろうね」


 彼方はラズイムから視線を外すことなく、唇だけを動かす。


「でも、それがバレたとしても、あまり困りはしないよ。他の呪文を使えばいいだけだからね」

「ならば、他の高位呪文でも使ってみたらどうですか?」

「じゃあ…………」


 彼方の周囲に三百枚のカードが現れる。


◇◇◇

【アイテムカード:妖銃ムラマサ】

【レア度:★★★★★★★★(8) 遠距離から強力なダメージを与える銃。弾丸は一発のみ。具現化時間:5分。再使用時間:20日】

◇◇◇ 


 彼方の前に黄金色に輝く銃が出現した。

 彼方はその銃を掴み、ラズイムに向かって引き金を引いた。

 銃声が響き、ラズイムの腹部に穴が開く。


 しかし、ラズイムは倒れなかった。

 僅かに顔を歪ませながら、首を左右に動かす。


「これもなかなか強力な攻撃ですね。でも…………」


 青い液体が腹部の穴を塞ぐ。


「こういうことですよ。あなたが何万回攻撃しても、私を殺すことはできないんです。魔力の無駄ですよ」

「…………変だな」


 彼方は漆黒の瞳でラズイムを見つめる。


「変? 何がですか?」

「もし、不死が本当なら、その情報を教えずに僕に能力を使わせたほうがいいんじゃないかな」

「…………その手もありましたね。気づきませんでしたよ」

「あぁ。やっぱり、不死じゃないんだ」


 彼方はラズイムの顔を見て言った。


「一瞬、頬が痙攣したし、僕から視線も外したよね? それに声の調子も違う」

「…………あなたがそう思うのなら、もう一度、攻撃したらどうですか?」

「もう一度? 何度でも、じゃないんだ? もしかして、数に制限があるのかな?」

「…………」

「当たりみたいだね。わざと攻撃を受けたことも考えると七回以上…………十二回……はないか。十回ぐらい殺されればマズイってところかな」


「…………やはり、あなたは危険ですね」


 ラズイムは胸元から直径三センチ程の半透明な球体を取り出して指で潰した。中に入っていた七色の粉がラズイムの体を包む。


「いいでしょう。久しぶりに全力で戦ってあげますよ。私の秘密を知ったあなたを生かしておくわけにはいきませんからね」

「僕もそのつもりだよ」


 そう言って、彼方は新たなカードを選択した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る