第292話 死者の王ガデスvsガズール

「死ねっ! 死霊使い!」


 ガズールはマジックアイテムのロングソードを真横に振った。


 ガデスは滑るように移動して、その攻撃をかわす。さらに黒い霧を出して、自身を包んでいた炎を消した。


「どうやら、お前が部隊の長のようだな」

「それがどうしたっ!」


 ガズールは左手を前に突き出す。ガデスの後方に炎の壁ができた。


「お前は逃がさん! ここで殺す!」


 ガズールの持つロングソードが炎に包まれた。


「骨まで溶かしてやるぞ!」


 左足を強く蹴り、ガズールはガデスの右に回り込んだ。低く頭を下げてロングソードを斜めに振り上げる。

 ガデスの左手首が切断され、その部分が燃え上がる。


 しかし、ガデスの表情に変化はなかった。

 鋭く伸びた右手の爪でガズールのノドを狙う。

 ガズールは膝を大きく曲げて後方に跳んだ。


 距離が開くと同時にガデスは呪文を唱える。

 黒い霧がヘビのような形になり、ガズールの左足に絡みついた。


「ぐうっ…………」


 ガズールは顔を歪めながら、ロングソードで黒い霧を斬る。黒く変色した自身の左足を見て、尖った牙を鳴らす。


「さすがだな。ザルドゥ様に傷をつけただけはある。だが…………」


 腹部が膨れた二匹のゴブリンがガデスに突っ込む。


「また、そいつらか…………」


 ガデスは素早く呪文を唱える。目の前に半透明の壁が現れた。

 さらに四体のスケルトンがゴブリンに抱きつき、その動きを止める。


「無駄だ。自爆するゴブリンのことは知っている。我には通じない」

「…………くそっ! 仲間のスケルトンを盾にするつもりか」

「問題なかろう。スケルトンはいくらでも増やせるのだからな」


 周囲にあるモンスターの死体が溶け、新たなスケルトンが現れる。


「時間が経てば経つほど、我が有利になる」

「ならば、今すぐ、お前を…………」


◇◇◇

【呪文カード:サイコレーザー】

【レア度:★★★★★★★(7) 属性:無 対象に魔法防御無効の強力なダメージを与える。再使用時間:15日】

◇◇◇


 青白い光線がガズールの胸に穴を開けた。


「がぁ…………」


 ガズールは呆然とした顔で振り返る。

 そこには彼方が立っていた。


「ひ…………氷室彼方…………」


 ガズールの口から、青紫色の血が流れ出す。


「どっ…………どうして俺たちの動きを知った?」

「君が知る必要のない情報だよ」


 彼方は腰に提げたマジックアイテムの短剣を引き抜き、ガズールに歩み寄る。


「君は…………いや、君たちは全員死ぬんだし」

「死ぬ…………だと?」

「うん。君たちの部隊よりスケルトンの数のほうが多いし、その差はどんどん広がってる。爆弾アリもいるし、この状況なら、僕が負けることはないよ」

「卑怯者…………め」


 ガズールは金色の目で彼方を睨みつける。


「ザルドゥ様を倒した強者が…………こんな戦い方をするのか?」

「千体の部隊で奇襲をかけようとしてた君が言うセリフなの? しかも人質も取ろうとしてたし」


 彼方は呆れた顔で息を吐く。


「まさか、文句を言われるとは思わなかったよ」

「ぐっ…………」


 ガズールは震える手でロングソードを構えた。


「こうなったら…………俺と一対一で戦え!」

「そんな気はないな」


 彼方は即答した。


「胸を貫かれても生きてる君は強い上位モンスターみたいだし、秘薬も使って強化してるよね? そんな相手と一対一で戦う理由はないよ」

「傷ついてる俺が怖いのか?」

「悪いけど、その手の挑発に乗るつもりはないから。それにガデスが君と決着をつけたがってるみたいだし」

「カカッ。さすが我がマスター。わかってるではないか」


 ガデスが笑いながら、ガズールに近づく。


「では、続きを始めようか」

「…………おのれっ!」


 ガズールはガデスにロングソードを投げつけ、深く膝を曲げる。両足で地面を強く蹴り、彼方に向かって飛びかかった。


 ――ガデスを牽制して、僕を狙ってきたか。この状況なら、そうするしかないよな。


 彼方は持っていた短剣でガズールの爪を受け止めた。


 ――速さだけじゃなくて、力も強い。だけど、僕もネーデの腕輪を装備していて、パワー負けすることはない。


「死ねぇえええ!」


 ガズールは目を血走らせて、左右の爪を振り回す。

 彼方を守るようにスケルトンがガズールの前に出た。


「どけっ! 雑魚がっ!」


 ガズールはスケルトンの首の骨を爪で飛ばした。


 ――今だっ!


 彼方は渾身の力で短剣を投げた。短剣はガズールの額に突き刺さり、その先端が脳に届いた。


「があっ…………」


 ガズールは口を大きく開いたまま、前のめりに倒れた。巨体がぴくぴくと痙攣し、数秒後にその動きが止まる。


「我がマスターよ」


 ガデスが白い歯を開いた。


「こいつは我が殺すのではなかったのか?」

「仕方ないだろ。僕を狙ってきたんだから」


 彼方はガズールの死体から目を離さずに答えた。


「まだ、敵は残ってるから、他のモンスターと戦えばいいよ」

「…………ふむ。残念ながら、そうするしかなさそうだ。こいつは我と違って、死んだら終わりのようだしな」


 ガデスは新たな敵を捜して、視線を左右に動かした。


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