第290話 作戦
三時間後、彼方は緩やかな丘の上で足を止めた。
周囲は草原で、北側には切り立った崖が数キロに渡って続いている。
「ここがよさそうだな」
彼方は視線を動かし、周囲の地形を確認する。
――ガズールの部隊がキルハ城を目指すなら、この草原を通るはずだ。遠回りするような状況じゃないし。
彼方は意識を集中される。
三百枚のカードが周囲に浮かび上がった。
◇◇◇
【召喚カード:結界の妖精 チャルム・ファルム】
【レア度:★★★★★★(6) 属性:地 攻撃力:0 防御力:100 体力:100 魔力:5000 能力:分身能力を持ち、強力な結界を作る能力がある。召喚時間:1日。再使用時間:14日】
【フレーバーテキスト:チャルム・ファルムはイタズラ好きの妖精じゃ。あれについていったら、二度と村には戻れなくなるぞ(木こりの老人)】
◇◇◇
彼方の前に背丈が二十五センチ程の妖精が現れた。髪は淡い緑色で背中にトンボのような半透明の羽を生やしている。服はダークグリーンで先端が尖った茶色の靴を履いていた。
チャルム・ファルム――チャルムは羽を動かして、彼方の肩に腰掛けた。
「はーい。私を呼び出したってことは、結界かな?」
「うん」と彼方は答える。
「もうすぐ、この草原にモンスターの部隊がやってくるんだ。数は千体ちょっと」
「ふーん。じゃあ、この前より、分身の数は少なくていいかな」
「そこは君にまかせるよ。ただ、君は敵とおしゃべり禁止だから」
「えーっ! 何それ」
チャルムは頬を膨らませた。
「私が彼方の能力を敵に教えるって言うの?」
「前にネフュータスに話しただろ? 結界が消える時間を」
「あ…………あれは…………おしゃべりじゃないから! 痩せたお爺ちゃんに私の能力を話しただけだから」
「それが、おしゃべりって言うんだよ」
彼方は人差し指でチャルムの小さい体を突いた。
「あっ! 今、私の胸触った」
「ん? 肩だと思ったけど?」
「指先がちょっとだけ当たったもん。彼方のエッチ!」
「そんなことはどうでもいいから、早く動いて」
「うーっ、わかったよ」
チャルムは半透明の羽を動かして飛び上がった。彼女の姿が二匹になり、四匹、八匹、十六匹と増えていく。
三十ニ匹に増えたチャルムが飛び去ると、彼方は新たなカードを選択する。
◇◇◇
【召喚カード:死者の王 ガデス】
【レア度:★★★★★★★(7) 属性:闇 攻撃力:4400 防御力:1000 体力:2000 魔力:3500 能力:ガデスに殺された者はスケルトンとなる。召喚時間:8時間。再使用時間:20日】
【フレーバーテキスト:死者の王ガデスによって、アルの町は一夜にして死者の町となった。あの町に近づいてはならない】
◇◇◇
白い光が輝き、彼方の前に黒色のローブをまとった骸骨が現れた。背丈は二メートル、眼球はなく、洞穴のような眼窩の奥に赤い光が見える。全身の骨は人間の骨とは多少違っていて、そのパーツは太く、指は二倍以上の長さがあった。あばら骨の中には肉はなく、左胸に赤黒い心臓が浮かんでいる。
骸骨――ガデスは剥き出しの歯を開いた。
「では、命令を聞こうか。我がマスターよ」
「この草原にやってくるモンスターの部隊の殲滅だよ。数は約千体」
「…………ほう。心躍る命令ではないか」
眼窩の奥の赤い光が輝いた。
「いいだろう。その命令…………喜んで従おう」
「あ、待って」
彼方はさらにカードを選択する。
◇◇◇
【アイテムカード:爆弾アリの巣】
【レア度:★★★★★★★(7) 1万匹の爆弾アリが棲む巣。爆弾アリは自爆して対象を攻撃することができる。具現化時間:10時間。再使用時間:20日】
◇◇◇
彼方の目の前に、いびつな形をした高さ五メートル程の蟻塚が現れた。その蟻塚は赤と緑と青色のコードが絡み合って作られていて、数百個の円形の計器が不規則に設置されている。下部には直径二十センチ程の穴が十数個開いていた。
カシャ…………カシャ…………カシャ…………。
不気味な音が聞こえてきて、下部の穴から、機械のアリが現れた。それは体長三十センチぐらいの大きさで、頭部に赤色のレンズのようなものがついていた。足は六本あり、胴体の部分は半透明でぎっしりと詰まった機械の部品が見えている。
機械のアリ――爆弾アリはぞろぞろと蟻塚から出てきて、尖った歯をカチカチと動かす。
彼方は結んでいた唇を開く。
「君たちの役目は、この草原にやってくるモンスターの部隊の殲滅だよ」
「ギ…………ギギ…………」
爆弾アリたちはレンズのついた頭部を縦に動かす。
「それと、悪いけど、最初に三千匹程、ガデスに殺されてもらうよ」
「カカカッ」
ガデスが歯をカチカチと鳴らして笑った。
「味方のクリーチャーを生贄にして、スケルトンを増やすのか」
「カードゲームでも、よく使われたコンボだからね」
彼方は淡々とした口調で答えた。
「こうすれば、アイテムカード『異形の銅像』で強化されたスケルトンの部隊で敵を奇襲することができるから」
「なかなか、嫌な戦い方をするではないか」
「相手よりも多くの数で奇襲するのも自爆攻撃を使うのも、相手がやろうとしてることだよ。当然、こっちがやっても文句は言わないと思うよ」
彼方の声が暗く低くなった。
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