第282話 赤鷲騎士団ガーグ団長
ウロナ村の中央にある村長の家で、彼方は赤鷲騎士団のガーグ団長と会った。
ガーグ団長は六十代後半で髪は白髪だった。あごひげも白く、頬には深いしわが刻まれている。
「君が氷室男爵か…………」
穏やかな声が部屋の中に響く。
「ふーむ、君は強いな」
「…………どうして、そう思うんですか?」
彼方は目の前に立っている老騎士に質問した。
「長年の勘だよ。五十年以上、騎士団にいると相手の力量が読めるようになる。君の強さはSランクの冒険者よりも上に感じる」
十数秒の沈黙の後、ガーグ団長は頬を緩めた。
「君が味方でよかったよ。君のおかげで我々は勝つことができた」
「…………いえ。あなたがウロナ村を守ってくれたから、この戦いに勝てたんです」
「そう思ってくれるのかね?」
「はい」と彼方は即答する。
「徹底的に守るあなたの戦略がナグチ将軍を苦しめたと思ってます」
「ふっ、私はナグチ将軍と違って凡将だからな。サダル国の英雄と戦うには、ああするしかなかった。ただ、それでも、長く戦えば、ウロナ村は落とされていただろう。リューク団長もケガをしたし」
「リューク団長は大丈夫なんですか?」
「命に別状はない。七日後の戦勝式には参加できるだろう。君といっしょにな」
「僕も戦勝式に出るんですか?」
「当たり前ではないか。君は敵軍の大将を倒したのだから」
ガーグ団長はしわだらけの手で彼方の肩に触れる。
「とりあえず、君の話を聞かせてもらおう。どうやって、あのナグチ将軍を倒したんだ?」
「あぁ…………そうですね」
頭をかきながら、彼方はガーグ団長を見つめる。
――ガーグ団長から敵意や悪意は感じられない。でも、僕の能力は詳細に話さないほうがいいな。情報がどこから漏れるかわからないし。
彼方はナグチ将軍と戦った時の話を始めた。
◇
七日後、彼方はヨム国の王都ヴェストリアの王宮にいた。
玉座の間には、多くの貴族が集まっていて、ゼノス王の前に並んでいる、彼方、ガーグ団長、リューク団長、ウル団長、金獅子騎士団のアルーム千人長が前列に。その後ろに十数人の千人長が並んでいる。
「我が騎士たちよ…………」
ゼノス王の口から重々しい声が漏れた。
「見事な戦いぶりであった。ヨム国の王として、お前たちを誇りに思う」
ゼノス王の言葉に騎士たちは片膝をついて、頭を下げる。
彼方も同じようにゼノス王に頭を下げた。
「さて…………氷室男爵」
ゼノス王が彼方に視線を向ける。
「お前に会うのは二度目だったな?」
「…………はい」
「お前がナグチ将軍を倒したと、ガーグ団長から聞いている。本当か?」
「…………本当です」
彼方の言葉に周囲にいた貴族たちがどよめいた。
「こんな少年が、あのナグチ将軍を倒したのか…………」
「信じられん。彼はFランクではないか」
「しかも、前にギルマール大臣が言ってたぞ。この少年は魔力がないと」
「あ…………あの時の少年か」
「静かに!」
ゼノス王が右手を軽く動かす。
「氷室男爵。どうやら、ギルマール大臣の判断は間違っていたようだ。お前は魔法が使えるのだな?」
「…………使えます」
一瞬悩んで、彼方は答えた。
「この世界の魔法とは違うようですが、攻撃呪文と召喚呪文を使うことができます」
「なるほど。異界の魔法ということか」
ゼノス王は険しい目で彼方を見つめる。
「ここで何らかの呪文を使うことができるか?」
「では、召喚呪文を…………」
彼方の周囲に三百枚のカードが現れた。
わざと唇を動かして、彼方は呪文を詠唱しているふりをする。
そして、一枚のカードを選択した。
◇◇◇
【召喚カード:ガラスのゴーレム ゴレポン】
【レア度:★(1) 属性:地 攻撃力:100 防御力:100 体力:100 魔力:0 能力:ガラスのゴーレムを破壊した者の目を眩ませる。召喚時間:1日。再使用時間:5日】
【フレーバーテキスト:こいつ…………最弱のクリーチャーのくせに自分のことを強いと思ってるみたいだな】
◇◇◇
彼方の前に青いガラスでできたゴーレム――ゴレポンが召喚された。
ゴレポンは身長が二メートル近くあり、がっちりとした体格をしていた。目は丸く、鼻はなく、口は真一文字に広がっている。
「おおーっ!」
貴族たちが感嘆の声を漏らした。
「十秒もかからずに召喚呪文を使えるとは…………」
「強いモンスターには見えませんが、なかなかの速さですな」
「ええ。しかも氷室男爵は剣の腕前もなかなかのものとか。あのSランクの魔法戦士ユリエス殿が彼の実力を認めたと聞いております」
「ほぅ。そこまでの強者が、我が国にいたとは…………」
「見事なものだ」
ゼノス王は彼方が召喚したゴレポンを見て、何度もうなずく。
「召喚呪文が使える魔法戦士とはな。ナグチ将軍が不覚を取るのも理解できる」
「運がよかっただけです」
そう言って、彼方は頭を下げた。
「安心するといい。運であったとしても、恩賞が減ることはない。お前がナグチ将軍を倒したのは事実だからな」
「お待ちください!」
玉座の間に男の声が響き渡った。
全員の視線が声がした方向に向く。
そこには、目を血走らせたギルマール大臣が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます