第281話 結末
――五人の戦天使の制限で、二十四時間、呪文カードが使えなくなった。だけど、召喚カードとアイテムカードは使える。
彼方の周囲に三百枚のカードが浮かび上がる。
――メタセラは召喚時間が終わってる。音葉は、まだ倒されてないか。それなら…………。
◇◇◇
【召喚カード:九尾のフェンリル】
【レア度:★★★★★★★★★(9) 属性:地 攻撃力:6000 防御力:8000 体力:9000 魔力:4000 能力:治癒能力のある地属性のクリーチャー。召喚時間:3時間。再使用時間:25日】
【フレーバーテキスト:なんと美しく神々しい生き物なんだ。この生物になら、私は殺されても構わない(生物学者シルトン)】
◇◇◇
白銀に輝くフェンリルが姿を現した。顔は狼に似ていて、体長は三メートルを超えている。九尾のフェンリルは九つのしっぽを振りながら、彼方に歩み寄る。
「命令を…………聞こう。我がマスターよ」
「この近くに魔法陣を描こうとしてる部隊がいるはずなんだ。その部隊を全滅させて欲しい」
「…………理解した」
九尾のフェンリルは鼻をひくひくと動かし、月明かりに照らされた草原を走り出す。
――九尾のフェンリルは鼻が利くみたいだし、移動も速い。魔法陣を発見できる可能性は高いはずだ。
その時、羽音がして、有翼人のニーアが空から下りてきた。
「彼方…………サダル国の部隊見つけた」
ニーアは舌足らずな声を出して、峡谷を指さす。
「あっちで魔法陣描いてた」
「補給部隊のほうの魔法陣を見つけたんだ」
彼方はニーアの頭を撫でた。
「お手柄だよ、ニーア。これで兵糧攻めを続けられる」
「えへへ。ニーア、役に立った」
ニーアは嬉しそうに彼方に抱きついた。
「じゃあ、彼方を抱っこして連れて行く」
「いや、さすがにそれは無理だよ」
彼方の頬が緩んだ。
「大丈夫。音葉をカードに戻して、空を飛べるクリーチャーを召喚するから。ニーアは案内だけしてくれればいいよ」
――こっちの魔法陣は九尾のフェンリルにまかせて、補給部隊のほうの魔法陣を潰しておこう。
――僕たちが補給を止めてれば、後はヨム国の部隊がなんとかしてくれるだろう。もう、ナグチ将軍もいないんだし。
彼方は新たな召喚カードを選択した。
◇
七時間後、サダル国の本隊は峡谷の手前の草原に到着した。
ナグチ将軍が殺され、先行していた部隊が全滅していることを知ったサダル国の兵士たちのショックは大きかった。
呆然とする兵士たちを鼓舞し、カルミーラ師団長は峡谷を背に陣を敷いた。
「まだだっ! まだ、我らは負けてない!」
カルミーラ師団長は自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「補給部隊から、ワイバーンで食糧の輸送ができると連絡があった。少量だが、追ってきているヨム国の部隊と一戦交えるぐらいはあるだろう。絶対に諦めるなっ!」
しかし、食糧の輸送は上手くいかなかった。
彼方が飛行能力のあるクリーチャーでワイバーンを倒したのだ。
食糧を手に入れる手段がなくなったカルミーラ師団長は、追ってきたゴルバ千人長の部隊を全軍で攻めた。
ゴルバ千人長は守備重視の戦いに徹した。鉄亀の陣を敷き、攻めることなく戦いを長引かせた。
三時間後、銀狼騎士団の部隊が戦場に到着し、サダル国の部隊に側面から攻撃を仕掛けた。先頭で戦っていたカルミーラ師団長はウル団長に倒され、勝敗が決した。
峡谷の手前まで撤退したサダル国の兵士たちは、翌日、ゴルバ千人長に降伏を申し入れ、戦いはヨム国の勝利で終わった。
◇
峡谷の北にある林の中で彼方はレーネの報告を聞いていた。
「…………ってわけで、なんとかヨム国が勝ったみたいね」
「そっか。予想より早く決着がついたな」
「カルミーラ師団長がウル団長に倒されちゃったからね。それでサダル国の兵士が戦意喪失したんでしょ。食糧もほとんどなかっただろうし」
レーネは彼方の顔を覗き込む。
「ほんと、恐ろしい男ね。あのナグチ将軍を白兵戦で倒すなんて」
「危険な相手だったよ。カードの力がなかったら、死んでたのは僕だったと思う」
彼方の脳裏に笑みを浮かべたナグチ将軍の姿が浮かび上がる。
――あの戦い。ナグチ将軍に油断があった。僕と他の兵士との戦いを見て、白兵戦になれば負けるわけがないと思ったんだろう。もし、クロノスの祝福のカードを使わなかったら、一瞬で負けてたかもしれない。
「あ、そうそう」
レーネが胸元で手を叩いた。
「ティアナールから伝言。氷室男爵はウロナ村に来るようにって」
「ウロナ村に?」
「うん。赤鷲騎士団のガーグ団長が話を聞きたいみたいね。この戦いの最大の功労者はあなただから。きっと、恩賞ももらえるはずよ」
「恩賞か…………」
彼方は首を傾けて頭をかく。
――今の時点でも、金貨五百枚ぐらいは持ってるけど、お金は多いほうがいいか。七原さんの寿命を延ばす薬も手に入れないといけないし。
「それじゃあ、ウロナ村に行こうか」
「お供します。氷室男爵」
レーネは彼方に向かって、丁寧におじぎをした。
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