第280話 彼方vsナグチ将軍
◇◇◇
【呪文カード:闇月の鎖】
【レア度:★★★★★★(6) 属性:闇 対象の動きを止め、闇属性のダメージを与える。再使用時間:10日】
◇◇◇
カードが輝き、黒い鎖がナグチ将軍の体に絡みつこうとした。
その瞬間――。
ナグチ将軍の体が真横に移動した。
――速いっ! 秘薬で強化したのはスピードか。
彼方は聖水の短剣の刃を伸ばして、真横に振る。呪文カードでスピードを上げた彼方の攻撃をナグチ将軍はぎりぎりで避けた。
――速さだけなら、ザルドゥや四天王のガラドスより上か。クロノスの祝福で僕もスピードを上げてるのに避けるなんて。
彼方は聖水の短剣を振り回しながら、右に向かって走る。
「逃がしませんよっ!」
ナグチ将軍は恐るべき速さで彼方に迫り、黄金色の短剣を突き出す。
一度、二度、三度と高速で繰り出す突きを彼方はネーデの腕輪で受けた。
「やりますねっ!」
ナグチ将軍は笑みを浮かべたまま、黄金色の短剣を振り上げた。
――この握り方は、また短剣を投げるつもりか。それなら…………。
投げられた黄金色の短剣を避けると同時に彼方は前に出た。左足で強く地面を踏み、斜め下から聖水の短剣を振り上げる。
ナグチ将軍は上半身をそらして、その攻撃を避けた。
――ここで決める!
彼方はネーデの腕輪の力を使って、青い刃の軌道を変えた。
ナグチ将軍はつま先に力を入れて後方に跳ぶ。
二人の距離が八メートル程開く。
「ふう…………やはりあなたは危険ですね」
戻ってきた黄金色の短剣を握り直し、ナグチ将軍は額の汗を拭う。
「秘薬で強化した私とここまで戦えるとは」
「それは僕のセリフだよ」
彼方はナグチ将軍から視線を外さずに唇を動かした。
「でも、秘薬の効果は、すぐに切れるって聞いてるよ。せいぜい十分ぐらいとか。それなら、僕は粘ってれば勝てるから」
「ふっ、後三分もあれば、あなたを殺せますよ」
ナグチ将軍はメガネの奥の目を針のように細くして、前に出る。
――よし! これで攻めてくるはずだ。クロノスの祝福の残り時間は二分ちょっとだからな。効果が切れる前に勝負をつけないと。
――召喚カードは使えない。クリーチャーに命令を出す前に僕を狙ってくるだろう。それにナグチ将軍の表情に余裕を感じる。まだ、切り札を隠してるはずだ。
彼方の口中が乾く。
――危険な相手なのは間違いない。でも…………。
彼方の周囲に三百枚のカードが浮かび上がった。
◇◇◇
【アイテムカード:ディフェンダー零式】
【レア度:★★★★★★★(7) 無属性の短剣。装備した者の防御力と呪文耐性を大幅に上げる。具現化時間:3時間。再使用時間:15日】
◇◇◇
幅広の短剣が具現化された。ダークグレーの刃にはびっしりと魔法文字が刻まれている。その文字が黄緑色に発光していた。
ナグチ将軍の攻撃を聖水の短剣で受けながら、彼方はディフェンダー零式を左手で掴む。
「二刀流ですかっ! ならばっ!」
ナグチ将軍は左手を軽く振る。その手に赤黒い刃の短剣が握られていた。
――刃に小さな穴が開いてる。毒系かっ!
彼方は右に走りながら、聖水の短剣を振る。長く伸びた青い刃を黄金色の短剣で受け止め、ナグチ将軍は赤黒い短剣を突き出す。
彼方はディフェンダー零式の刃で、その攻撃を防いだ。
四本の短剣がぶつかり合い、甲高い金属音が草原に響く。
「キルフィル…………エグザ……ジグス…………」
ナグチ将軍は素早く呪文を唱える。十本の金色の矢が宙に出現し、それらが彼方に迫る。
一本の矢が彼方の太股に刺さった。
――いっ! だけど、深くは刺さってない。ディフェンダー零式の能力のおかげか。
――なら、これを利用する。
彼方は右膝を軽く曲げ、ダメージを受けたかのように動きを止めた。
「これで終わりですっ!」
強く地面を蹴り上げ、ナグチ将軍は前に出た。彼方に向かって黄金色の短剣を振り下ろす。
――今までと違って、攻撃が荒い。チャンスだ!
彼方はネーデの腕輪でナグチ将軍の攻撃を止め、そのまま斜めに跳んだ。同時に不自然な体勢から聖水の短剣を振る。長く伸びた刃の先端がナグチ将軍の腹部に届く。
「ぐうっ…………」
ナグチ将軍の顔が歪んだ。
彼方は素早く立ち上がり、ナグチ将軍に突っ込んだ。
「舐めるなっ! 異物がっ!」
ナグチ将軍は腹部から血を流しながらも彼方の連続攻撃を二本の短剣で受け続ける。
しかし、そのスピードは少しずつ遅くなり、彼方の攻撃を止められなくなった。
ディフェンダー零式の刃がナグチ将軍の肩に突き刺さる。
「ぐあっ…………」
ナグチ将軍は下がりながら、呪文を唱えた。
半透明の壁が彼方の前に現れた。
彼方は悩むことなく、呪文カードを選択する。
◇◇◇
【呪文カード:魔力霧消】
【レア度:★★★★★★(6) 属性:光 対象の呪文を打ち消す。再使用時間:10日】
◇◇◇
呪文カードの効果で半透明の壁が消えた。
ナグチ将軍は新たな呪文を唱えながら、黄金色の短剣を真横に振る。
彼方はぐっと体を沈めて、その攻撃をかわし、聖水の短剣を振り上げる。
ナグチ将軍の服が斜めに斬れる。
――しぶとい! 上半身をそらして致命傷を避けたな。でも、この傷でさらにスピードは遅くなるはず。
その時、ナグチ将軍の体が白く輝いた。
――回復呪文か。そうはさせないっ!
彼方は左右に持った短剣を交差されるように振った。
ナグチ将軍の胸から血が噴き出すが、その傷がすぐに塞がっていく。
――持続性のある回復呪文か。それなら…………。
彼方は新たな呪文カードを選択した。
◇◇◇
【呪文カード:五人の戦天使】
【レア度:★★★★★★★★★(9) 属性:光 特殊召喚された五人の戦天使が対象を攻撃する。
この呪文を使用した場合、新たな呪文カードを24時間使用することはできない。再使用時間:30日】
◇◇◇
彼方の頭上に五人の戦天使たちが現れた。戦天使たちは白い翼を生やしていて、黄金色の鎧を装備している。その手には、剣、槍、斧、メイス、弓を持っていた。
戦天使たちはナグチ将軍に襲い掛かる。
ナグチ将軍の体が剣で斬られ、槍で突かれ、斧とメイスが骨を砕いた。そして、白く輝く矢がナグチ将軍の胸に突き刺さる。
「がああ…………」
ナグチ将軍は口を大きく開いたまま、地面に倒れた。
「…………ばっ…………バカな。秘薬もなしに、これ程の高位呪文を…………」
「あなたの回復呪文もたいしたものですよ。五人の戦天使の攻撃を受けて、まだ、生きてるんだから」
彼方は暗い声で言った。
「でも、もう、終わりです。呪文の効果も切れたみたいだし」
「…………はっ…………ははっ」
ナグチ将軍は唇を震わせながら笑った。
「ど…………どうやら、私の負けのようですね。あなたは…………私の想像を超えた存在でした」
色を失った唇の端から血が流れ出す。
「直接、戦うべきでは……なかった。私の…………最大の失敗……」
ナグチ将軍の瞳から輝きが消えた。
「…………僕も戦いたくはありませんでしたよ」
彼方はまぶたを閉じて、深く息を吐き出した。
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